『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』は、他人を理解する難しさがわかる本。
ビジネス書のような心構えで読むと、不意打ちで心が揺さぶられます。
『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』では次の2つの問いに、さまざまな事例や研究から答えようとしています。
①見知らぬ相手が面と向かって嘘をつくとき、なぜ私たちはそれを見抜けないのか?
②よく知らない人に会うと実際に会っていない場合よりその人物についてうまく理解できなくなることがあるのはなぜか?
人はかんたんに他者に誤った評価を下しますし、嘘を見抜けません。
慎重さと謙虚さがいかに大切かがわかります。
★『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』の要約ポイント★
・基本的に相手が正直であるという前提を持っている
・相手の行動や態度が感情を正しく表しているとは限らない
事例が重い(戦争、テロ、犯罪、自殺など)ので読後感はあまりよくないのですが、人間の人間らしい面がよくわかる本です。
この記事では『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』の要約を紹介します。
目次
要約①:相手が正直であるという前提(TDT)
①見知らぬ相手が面と向かって嘘をつくとき、なぜ私たちはそれを見抜けないのか?
1つ目の質問の答えは、人間は相手が正直であるという前提で生きているからです。
心理学者ティム・レバインの実験で、人がいかに嘘を見抜けないかが分かります。
<実験の概要>
あるテストの間に助手が席を外し、かんたんに答えが見られるようにしておく。
テスト後に「席を外した時に不正をしたか?」と質問する。
質問時の動画を観て、正直者か嘘をついているかを当てる。
この実験の正答率は平均54%でした。偶然よりほんの少し良いくらいです。
これは嘘を見抜くのに長けていると思われる警察官でも裁判官でも、他の職業の集団と変わりませんでした。
正答率には傾向があり、正直者は正答率が高く、嘘つきのほうが正答率が低かったです。
つまり、正直者は正しく判断できるのに、嘘つきは見抜けないということ。
そこからレバインはTDTを導き出しました。
TDT(トゥルース・デフォルト理論):
基本的に目の前の相手が正直であるという前提を元に行動する
デフォルト状態から抜け出すには、ちょっとした疑念では不十分です。
デフォルトを信じるのが難しいくらい決定的なことがなければ、あらゆる可能性を考えてデフォルトを信じ続けてしまいます。
限界が来るまでわたしはあなたを信じつづけた。デフォルトの信用にたいするこれほど完璧な説明があるだろうか?
信用のデフォルトを持ち合わせていない人間はTDTから自由です。
しかし、他人に対して疑い深く、信用をベースとした社会では生きづらい変わり者になるでしょう。
進化の過程のなかで人間は、眼のまえで起きる欺き行為を嘘だと見破る巧妙かつ正確なスキルを磨き上げなかった、とレバインは主張する。なぜなら、まわりの人々の言動を事細かに精査するためにわざわざ時間を費やすことに利点などないからだ。人間にとっての利点は、見知らぬ他人が真実を語っていると仮定することから生まれる。
ごくたまに遭遇する騙す人に警戒するよりも、大多数の騙そうとしない人と良好で効率的なコミュニケーションが取れるほうがメリットが大きくなります。
なんで気づかなかったのか?というのは後から振り返って言えることなんですね。
要約②:相手の行動や態度が感情を正しく表しているとは限らない
『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』で答えようとしている2つ目の質問は次のものでした。
②よく知らない人に会うと実際に会っていない場合よりその人物についてうまく理解できなくなることがあるのはなぜか?
実際に会ったほうが人に対する判断力は上がりそうな気がしますが、そうとも限らないのです。
<ニューヨーク市の裁判官を対象とした研究>
裁判官が判断した保釈者のリストとAIが判断した保釈者のリストを比較。
裁判官が判断したリストのほうが裁判を待つまでの犯罪率が25%高かった。
AIが使える被告人の情報は年齢と前科記録のみ、裁判官は直接本人の証言を聞く機会があった。
直接会うことがないほうが、判断の精度が高いのはどうしてでしょうか。
1つ目の理由は、非対称な洞察の錯覚です。
非対称な洞察の錯覚:
自分にはより優れた洞察力があり、相手の本質を見抜くことができるという誤解
自分のことはなかなか理解できないと思う一方で、自分は相手のことを理解できていると思いこみやすいです。
私たちはみな、薄っぺらな手がかりにもとづいて他者の心を見抜くことができると考え、機会があるたびに他者について判断を下そうとする。当然ながら、自分自身にたいしてそのような態度を取ろうとはしない。自分たちは繊細で複雑で謎だらけ。しかし、他者は単純。
この本で私があなたにひとつだけ伝えることができるとしたら、これにしたいーあなたのよく知らない他者はけっして単純ではない。
2つ目の理由は、透明性の問題です。
透明性:相手の行動や態度が内側の感情と合っている程度
テレビドラマなどの演技は透明性が高いといえます。
しかし、もともとの性格や文化的な背景によって、透明性が低い場合もあります。
<スペインの人類学者ハリローと心理学者クリベッリの調査>
さまざまな表情の顔写真をスペイン人の小学生とトロブリアンド諸島民に見せて、どんな感情を表しているか調査した。
※トロブリアンド諸島は数千年前とほぼ同じ方法で農業・漁業を営んでいる隔絶された島
小学生の90%以上が”怒り”と感じた表情を、トロブリアンド諸島民は次のように感じました。
・幸せ 20%
・恐怖 30%
・嫌悪 20%
・悲しみ 17%
・怒り 7%
とても幸せとは解釈できない表情に思えましたが、文化によって表情から読み取る感情は違うのです。
相手の行動や態度が内面の感情と一致しないとき、人間は嘘を見抜くのがとても下手になります。
たとえば、目をそらすのが嘘をついている表れだという思い込みがあります。
しかし、現実世界の嘘つきは目をそらしたりしないのです。
”第7章 アマンダ・ノックス事件についての単純で短い説明”は、透明性の問題を興味深く考察しています。
アマンダ・ノックスはえん罪で4年間も刑務所で過ごしました。
その理由は事件現場にふさわしい振舞いをしなかったから、友人が殺されたときに一般的に抱くイメージに一致しなかったからです。
(前略)見知らぬ他人を理解するための探求には限界がある、と私たちは受け容れなくてはいけない。すべての真実を知ることなどできるはずがない。(中略)見知らぬ相手と話をするためには、慎重さと謙虚さを持つことがなにより大切になる。
第1章と第12章では、アフリカ系アメリカ人女性サンドラ・ブランドの事件を取り上げています。
事件の真相がわかる様子は、まるで推理小説の叙述トリックのようです。
私たちは、よく知らない相手とどう話をすればいいのかを知らない。では、その相手との関係がうまくいかないときにどうするのか?そう、よく知らない相手のせいにする。
サンドラ・ブランドは方向指示器を出していないという交通違反で警察官に逮捕され、3日後に独房で自殺しました。
見知らぬ他者と関わるときの過ちが重なった悲劇的な事件です。
他者への思いこみや決めつけに陥りやすいこと、他者を理解するには慎重さと謙虚さを忘れないことが胸に重く突き刺さる本でした。
『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』の次に読むなら?
『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『Think Again』
思考柔軟性(メンタル・フレキシビリティ)の重要性がわかる本です。
思考柔軟性:既存の考えを新たな視点から見つめ直すこと
謙虚さを持って自分を疑うことで、思いこみから逃れられます。
参考記事:『Think Again』の要約まとめ:思考柔軟性(メンタル・フレキシビリティ)を上げるには?
②『多様性の科学』
多様性が組織に与えるプラスの影響がわかる本。画一的な組織の弱さ、怖さもわかります。
参考記事:『多様性の科学』の要約と感想:多様性がなぜ必要なのか?がわかる本
③『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』
アンコンシャス・バイアスとは無意識の思いこみや偏見のこと。
多様な価値観を活かすためにアンコンシャスバイアスに気づいて対処するマネジメントがわかる本です。
参考記事:『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』の要約:最高のリーダーは自分を信じない
まとめ:他人は思ったより複雑である
・嘘を見抜けないのは、正直であるという前提で人と向き合うから(TDT)
・信じつづけるのが難しい決定的なことがない限り、正直であると信じつづける
・自分は相手の本質を見抜けると過信してしまう(非対称な洞察)
・相手の外側(行動や態度)と内側(感情や思考)が一致しているとは限らない
・他者を理解するには慎重さと謙虚さを忘れない
自分が理解できていると思っているのは、ただの思いこみかもしれません。
特によく知らない相手には”本質を見抜くことなどできない”というスタンスで、
決めつけや勝手な思い込みを極力減らすことがトラブル回避につながります。
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