『経済は感情で動く』は行動経済学の入門書として有名な本。
人間が経済活動をするときにどう意思決定をするのかについて、
をたくさんの事例で紹介しています。
伝統的な経済学ではいつも合理的に得になるほうを選択する人間像がベースにありました。
しかし、行動経済学では実際の人間はそんなに合理的に判断しているわけではなく、
感情を優先して非合理的な行動をすることがあると明らかにしています。
★『経済は感情で動く』の要約ポイント★
・価値は相対的なものであり、条件によってかんたんに判断が変わる
・あらゆる決定は無意識の認知と合理的な思考の駆け引きによる結果
人間心理をおもしろく理解できる本です。
営業やマーケティングの仕事では、テクニック的に使えるかもしれません。
合理的でないところも人間の魅力と捉えています。
この記事では『経済は感情で動く』の要約まとめと感想を紹介します。
目次
要約①:価値は相対的である
『経済は感情で動く』では、
クイズ形式で人間が陥りがちな心理バイアス(先入観)を紹介しています。
事例に共通するのは、人間が感じる価値は相対的であるということ。
周りの状況や選択肢の見せられ方によって、かんたんに判断を間違えてしまいます。
特におもしろかったものをまとめました。
お金に色をつける心理
お金の価値は数字で表せるので、1000円はいつでも1000円と変わらない気がしますよね。
①劇場の入り口でオペラのチケット(2万円)をなくしたことに気づいた
②劇場の入り口で2万円をなくしてしまった(チケットはまだ買っていない)
2万円払って楽しみにしていたオペラを観ますか?
①の場合は諦める、②の場合はチケットを買う人が多いそうです。
①の場合はなくした2万円はオペラのチケットに使ったものであり、
さらに2万円でチケットを買い直すと合計4万円の出費になります。
②の場合、なくした2万円はまだ用途が決まっていない2万円であり、
チケットを購入してもオペラに費やした金額は4万円ではなく、2万円と感じるのです。
お年玉でもらった1万円は同じでしょうか。
買えるものは同じでも感じ方は違いますよね。
ヒューリスティクス:代表性
ヒューリスティクスは素早く判断するための思考の近道、
ファスト回路と言われるものです。
ヒューリスティクスを使えば脳の負荷をかけずに適切な判断ができるのですが、
ときに判断を誤らせることがあります。
めがねをかけ、物静かで、歴史本が大好きな男性がいる。
この男性の職業は図書館員か商店主、どちらである可能性が高いか?
代表例(ステレオタイプ)に当てはめて思考を省略すると、
図書館員と答えがちです。
しかし、世の中には商店主のほうが圧倒的に多く、
確率でいえば商店主を選ぶほうが当たりやすくなります。
ヒューリスティクス:利用可能性
ほかのヒューリスティクスの種類には、利用可能性があります。
自分が手に入れやすい情報だと、実際より発生しているように感じてしまうバイアスです。
メディアが視聴率を上げるためにネガティブなニュースを好んで発信すると、
世の中ネガティブなことばかり起きているように錯覚してしまいます。
現実が歪められているような気がしたら、
事実ベース=『ファクトフルネス』で物事を見てみましょう。
参考記事:【要約】ファクトフルネスの意味とは?批判も多いが読むべきベストセラー
フレーミング効果
フレーミング効果とは、
質問の表現や提示方法(フレーム)によって結果に影響を与えてしまうこと。
①この手術は生存率95%です。
②この手術は死亡率5%です。
同じことを言われていても、生存と死亡のどちらに焦点を当てるかで印象が違います。
どちらを選びたいですか?/選びたくないですか?、選択肢が2択か/5択か等、
聞き方によっても判断に影響する場合があるそうです。
たとえば、AとBという選択肢の他に、AとBより見劣りする選択肢Cを入れると、
AとBの比率が変わる事例などが紹介されていました。
要約②:無意識の認知と合理的な思考の駆け引きで決まる
心理的なバイアスやヒューリスティクスは無意識のうちに適用されます。
無意識の認知と合理的な思考が駆け引きをしながら、
人間は日々いろいろな決断をしているのです。
意志力を使い果たしたときは無意識の認知が優位になりそうですね。
人間は思ったより合理的ではなく感情に従って不合理な決断をすることがある、
というのがこの本の一貫したテーマです。
しかし、感情が邪魔なものだと言っているのではありません。
感情は危ない選択肢を取りそうなときに警告してくれる働きもあるのです。
(直感のようなものでしょうか)
選択に自分の感情が伴わなければ人間らしさが失われてしまいます。
正しい決定も、それを心に刻む感情が結びついていなければ、忘れ去られてしまい、過去の経験や知識を基礎にして活動することができない。感情やそれに関連する身体細胞の活動は、だから、有効な記憶と将来のシナリオに直結する力を保つための増幅装置として、決定のプロセスに不可欠な役目を果たしているのである。
要するに、好みやその根拠をしっかり自覚した冷静な知識だけでは、正しいことをするには足りなくて、感情のような、論理をつなぎ止めるものが同時になければならないということだ。
『経済は感情で動く』の感想
『経済は感情で動く』を読んで個人的に心に残ったポイントを紹介します。
だから、この何か月かのあいだでいちばん後悔したのは何ですか、とだれかに訊くと、ある選択が思ったような結果を生まなかった、といった返事をする。同じ人物に、いままでの人生で何を後悔していますか、と訊くと、したかったのにしなかったことを挙げることが多い。
人間は短期的にはやったことに対する後悔を感じやすいです。
なにもやらなければ現状維持のまま、
何かやって失敗したらやった分だけ労力が無駄になってしまう、と考えてしまいます。
しかし、人生単位で考えるとやらなかったことを後悔するそうです。
多くの人が「チャレンジしなかったこと」と答えるそうですよ。
チャレンジする内容によってはタイムリミットがあります。
老後の楽しみに…という発想は捨てて、
やってみたいことはすぐやったほうが良さそうです。
考えることは、無意識の反応の結果を除去したり書き換えたりするのに役立つほかに、そういう結果を出さないための力にもなる。そういう意味で、自省によって自分の限界への自覚を強めることは、合理性をそれだけ強めることになるのである。
直感のファスト回路ばかり使っていると、その回路がますます強化されていきます。
TikTokなどショートムービーの流行は、考えることをめんどくさいと思う人が増えたのかな?と感じてしまいました。
SNS等のプラットフォームはあの手この手で考えさせずにユーザーを足止めするので、
一定期間スマホなどから距離を置いて自分を振り返る時間を取りたいと思います。
『経済は感情で動く』の次に読むなら?
『経済は感情で動く』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『予想どおりに不合理』
行動経済学のベストセラーです。
人間は合理的には行動せず、感情で判断する生き物であるという結論は共通しています。
紹介している事例と文章がユーモラスでおもしろいです。
参考記事:『予想どおりに不合理』の要約・感想:行動経済学のはじめの一歩に最適!
②『問題解決「脳」のつくり方』
人間の脳が陥りがちな思考の落とし穴とその対策がわかりやすく解説された本。
思考のバイアスや合理的判断をゆがめてしまう原因がわかります。
参考記事:【要約】問題解決「脳」のつくり方!思考の落とし穴7つを攻略して問題解決に活かす!
③『直感と論理をつなぐ思考法』
自分のワクワクする直感や妄想からアイディアを形にする思考法についての本。
自分の「やりたい!」という強い気持ちを出発点に、アイディアを形にしていきます。
参考記事:『直感と論理をつなぐ思考法』の要約まとめ:ビジョンドリブンとは自分モードで生きること
まとめ:『経済は感情で動く』けどそれが人間らしい
・『経済は感情で動く』は行動経済学の入門書(クイズ形式で楽しく読める)
・人間は感情に従って不合理な判断をすることが多い
・価値の感じ方は状況や質問のされ方によって変わりやすい
・ヒューリスティクスや心理的バイアスが不合理な判断をさせている
・感情は悪者ではなく、直感的な判断力や人間らしさの源でもある
・立ち止まって考えることで自分の判断の限界に気づけばより合理的になれる
ヒューリスティクスや心理的なバイアスは、
深く考えなくても適切な判断ができるように考えられた脳の時短術です。
大きな決断のときにはその存在に気を付けて注意深く考えることが重要。
「わたしは深く考えなければバイアスにまみれた判断をするぞ」
と認識しておくだけでも後悔しない選択ができるでしょう。
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