『予想どおりに不合理』は行動経済学の第一人者、ダン・アリエリーさんのベストセラーです。
人間の不合理性をテーマに、さまざまな実験結果をふまえながら、
行動経済学初心者にもわかりやすく・楽しく読める本でした。
『予想どおりに不合理』を要約すると、次のとおりです。
人間は不合理であるが、その不合理性には規則性があるので改善できる。
いままでの経済学の理論や法律、政策などは人間が合理的である前提だったが、
実際の人間の行動に合わせて考え直す必要がある。
『予想どおりに不合理』は、いかに人間が不合理な選択をしてしまうかが
これでもか!と取り上げられています。
バイアスや購買行動に関する心理学に興味がある人におすすめ。
即実践できるビジネス書というよりは、行動経済学という分野の入門書です。
この記事では、『予想どおりに不合理』の要約と感想を紹介します。
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目次
『予想どおりに不合理』の要約
『予想どおりに不合理』にはさまざまな実験結果とその考察が載っています。
本書に一貫するメッセージは次のとおりです。
人間は不合理であるが、その不合理性には規則性があるので改善できる。
いままでの経済学の理論や法律、政策などは人間が合理的である前提だったが、
実際の人間の行動に合わせて考え直す必要がある。
たとえば、無料でお金やモノがもらえるなら合理的に考えて誰もがもらうはず。
でも、実際には無料に対する不信感(12章の「無料のお金」の実験)や
他の人の分がなくなったら悪いという社会規範(5章のキャラメル実験)など、
選択には合理的とはいえない人間らしい判断が含まれています。
伝統的な経済学の理論では、
”人間は合理的に行動するはずだから…”という前提のもとに考えられていました。
しかし、人間はもっと不合理であるというのが本書のざっくりした要約です。
『予想どおりに不合理』の目次と感想
『予想どおりに不合理』の目次と感想を紹介します。
知的なエンタメとしても楽しかったです。
1章:相対性の真相
価値を見極めるときに、何かと比べて相対的に判断しているという内容。
自分の過去の経験や類似商品の価格によって、判断が影響を受けているのがわかります。
アンカリングや松竹梅の法則(竹を選んでしまう)、おとり効果(捨て案)など、
価格決定に関するビジネス書を読んでいる方は知っていることが多いかもしれません。
2章:需要と供給の誤謬
1章の続きで、需要と供給は完全には独立していないという内容です。
価格は需要と供給のバランスで決まると言われますが、
供給側の見せ方によって需要はコントロールされる場合もあることがわかります。
3章:ゼロコストのコスト
この章では、”無料”という言葉の持つパワーが嫌というほどわかります。
”無料”という言葉がいかに魅力的で合理的な判断を妨げるか、という内容です。
『フリー』と似た内容でした。
『フリー』のほうがビジネス向け、無料を使ったビジネスモデルを詳しく紹介しています。
4章:社会規範のコスト
社会規範と市場規範は混ぜるな危険という内容。
社会のため、誰かのためという社会規範に則った行動が金銭という市場規範で測られると、人間関係を壊したりやる気をそがれたりします。
5章:無料のクッキーの力
4章の続きで、無料であることが社会規範を思い出させてくれるという内容。
この章に出てくるウェディングドレスの投げ売りセールの話は、
いちばん笑えました。
6章:性的興奮の影響
性的興奮時と平常時の判断にどのくらい差があるかがわかります。
いつでも理性的な判断ができると思うのは傲慢で、
後から考えたら絶対おかしいと思う判断もしてしまう、
という意識を持ったほうが良いですね。
7章:先延ばしの問題と自制心
先延ばしの問題を自覚し、決意表明をすることで先延ばしの問題が防げます。
どう考えてもやったほうがいいことができない例(禁煙、禁酒、勉強、貯金など)は誰でも思い当たるのではないでしょうか。
8章:高価な所有意識
自分が持っているものの価値は高く感じるという保有効果や
手に入れたものを失いたくないという損失回避が解説されています。
自分で手をかけた分だけ所有意識が強くなる特性を
「イケア効果」と名付けていたところがくすっと笑えるポイントです。
それどころか、所有しているという誇りは、家具の組みたての容易さと反比例していると言ってもさしつかえないだろう。 p.251
9章:扉をあけておく
選択肢を絞ることを躊躇してしまう、決断を下す難しさがテーマ。
「決断しないことによる影響」を無視してしまうのは、
機会損失につながるかもしれません。
10章:予測の効果
事前に知識があると判断が変わってしまうという内容です。
提供する側にとっては、説明を詳しく書く、見た目にこだわる等は
商品の中身と同じくらい重要だということ。
ただ、肯定的な予測を排除することは、失望しない代わりに、現実以上に楽しめたり喜べたりするチャンスを逃してしまいます。
たとえこじつけでも、自分の判断に十分満足して幸せならそれでいいのかも?
11章:価格の力
高い薬のほうが効果があるように感じる、いわゆるプラセボ効果の話。
有名なので知っている方も多いかもしれません。
高い栄養ドリンクのほうが効きそうな気がする…
これは深くうなづいてしまいました。
自己暗示でも効果が感じられるならプラセボ効果も悪くない?
12章:不信の輪
利己的な一部の人間によって長期的な利益が奪われたり(共有地の悲劇)、
信用がない世界では正直者が損をしたりする事例が紹介されています。
SNSの加工合戦が思い浮かびました。
加工するのが当たり前とみなされて、
加工されている予測分が割り引かれるので正直者が損をする仕組みです。
13章:わたしたちの品性について1
14章:わたしたちの品性について2
大きな不正行為は社会的美徳に反すると考えるのに、
小さな不正行為は多くの人がしてしまうという話。
特に直接現金を盗むような不正でなければ、不正のハードルが下がるそうです。
キャッシュレス決済が増えて現金が減っているので、
不正に対する意識はどんどん薄れるのかもしれません。
日本人なら何でしょう。”お天道様が見てる”でしょうか?
15章:ビールと無料のランチ
ここでいう無料のランチとは、次のように説明されています。
わたしたちがみんな、決断にあたって規則正しい失敗をするのなら、新しい戦略なり道具なり方法なりを開発して、わたしたちがよりよい決断をし、全体的な幸福感を増やせるようにしたらどうだろう。これこそ、行動経済学の観点から見た無料のランチの意味するところだ。p.437
この章はこれまでの総まとめ、行動経済学の目指すところや著者の主張が一番表れている章です。
個人的に構成のうまさというか、おしゃれさを感じました。
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『予想どおりに不合理』の感想:心に残ったポイント
個人的にとても心に残ったポイントを2つ紹介します。
・社会規範に市場規範を持ち込むと関係性が壊れる(4章)
・透明性が信用を回復させる(12章)
社会規範に市場規範を持ち込むと関係性が壊れる
この本を読むまでは、保育園の保護者会や学校のPTAなど、
外注してお金で解決すれば良いという考えでした。
役員決めの気まずさや時間的な拘束を考えたら、
お金で解決したら早い!と思っていました。
なんで明快な解決策を採用しないのか?と疑問でしたが、
社会規範に市場規範を持ち込む抵抗感があるのだと言語化できました。
PTA活動や役員活動は子どものため・地域社会のためという側面があります。
それを単純に労働として金銭換算することに、抵抗を感じる人がいるのですね。
わたし個人としては市場規範で労働として扱うことに抵抗はないですが、
抵抗を感じる人の気持ちも理解できます。
「お金を払えばいいってもんじゃない」という気持ちが、
合理性を失わせていると言えます。
ただ、合理的=すばらしいということではなく、
なんでも市場規範で割り切れないところが人間のやさしさのような気もしました。
クックパッドも楽天レシピも一般人がレシピを投稿できるサービスです。
クックパッドは直接的な金銭的報酬がないのに対して、
楽天レシピは投稿すると楽天ポイントがもらえることから、
楽天レシピがクックパッドを抜くのではないかと言われていました。
しかし、結果はクックパッドの圧勝でした。
お金をもらえる=労働、無償のボランティア=貢献・自己実現
というインセンティブの違いを見誤ったために、
楽天レシピは思ったより利用されなかったのではないでしょうか。
透明性が信用を回復させる
12章『不信の輪』の内容は、
Webマーケティングが流行っている2021年だからこそ、とても印象的でした。
『予想どおりに不合理』は2013年発行されました。
2013年よりもっと広告の信用は落ちていて、
購入者の広告やステマに対する警戒心は強くなっています。
SNSやブログを使って広告で稼ぐ仕組みが知られるようになり、
ネットで出てきた情報は「どうせ広告で信ぴょう性がない」と思う人が増えました。
「これは売りたい順なんだろうな」と疑いの心がちょっとあります。
たくさんの情報にアクセスできるようになったのは良いことですが、
偽情報や誇張した情報に出会うにつれ、情報への信頼は落ちていきます。
そんな中、信用を得ていくためには透明性が必要だと著者は述べています。
いまのように何もかも公にさらされる世のなかでは、目にあまる不品行が見過ごされることはまずないのだから、もっと信用に値する積極的なビジネスのやり方を取りいれてはどうだろうか。p.369
顧客が自由に発言できる場を用意する旨もありましたが、
現在では企業が用意しなくてもSNS上で自由に意見が言える時代です。
より一層、誠実なビジネスが求められるのかもしれませんね。
『予想どおりに不合理』の次に読むなら?おすすめ本3選
『予想どおりに不合理』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『経済は感情で動く』
こちらも行動経済学の本です。
人間が感じる価値は相対的であり、周りの状況や選択肢の見せられ方によって、
かんたんに判断を間違えてしまいます。
クイズや事例がたくさんあって理解が深まります。
参考記事:『経済は感情で動く』の要約まとめ:合理的な判断は意外と難しい【行動経済学】
②『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
認知神経科学者が書いた本。
他人の意見や行動を変えたいときに客観的な事実がいかに無力であるか、
そして感情や周囲の状況のほうがはるかに影響を与えていることがよくわかります。
参考記事:『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』の要約まとめ:他人を動かすには?
③『NOISE』
判断エラーの1つ、ノイズを理解して予防し、判断の質を高めよう!という本。
ノーベル経済学賞をとったダニエル・カーネマン他が書いています。
判断の手続きなど制度をつくる人は必読です!
事例では公務員、裁判官、警察官、経営者、医者などが取り上げられています。
参考記事:『NOISE』の要約まとめ:判断のノイズを減らすには?【ダニエル・カーネマン】
まとめ:『予想どおりに不合理』を前提に改善しよう
・人間はけっこう不合理な判断をしている
・不合理性には規則性があるから認識して改善できる
・人間はさまざまな要因の影響を受けて判断している
‐類似商品の価格、過去の自分の行動、感情、知識、人からどう見られるか等
・社会規範に市場規範を持ち込むとやる気がそがれたり人間関係が壊れたりする
・不信の輪から逃れるためには透明性が必要
人間は不合理だからおもしろいと感じられる1冊でした。
自分が何か決めるときには、本の内容を思い出してメタ認知(自分を客観視)してみます。
複数あるメニューから選ぶときに何と比較して選んだのか、
など考えてみると楽しそうです。
自分の心の動きやバイアス(先入観)に興味がある人、
重要な選択をする機会が多い管理職には直接的に役立つかもしれません。
もちろん、行動経済学の教養として読むのもおすすめです。
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