『失われた賃金を求めて』の要約まとめ:男女の賃金格差を考察

『失われた賃金を求めて』の要約まとめ:男女の賃金格差を考察

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『失われた賃金を求めて』は性別による賃金格差がどう生まれるのか考えられる本です。


冒頭に次の問いが提示されます。

韓国で、女性がもっと受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ。

この問いに答えるには、単純に同じポジションの男性と比較するだけでは足りません。そもそも、そのポジションにつくための状況に格差があります。

進学、就職、評価、昇進など、さまざまな観点で性別による違いが考察されています。

性別によって賃金が違うことがある。もっとハッキリ言えば、人生のさまざまな局面に潜む性差別は、一生を通じて女性の経済力をバッサバッサと切り落とし、あるいはジワジワと削り取っていく。

★ 『失われた賃金を求めて』 の要約ポイント★

 

・能力があれば男女関係なく成功できるは本当?

 

・女性の成功は例外扱いされる

 

・男性が昇進するほうがなんか自然という刷り込み

韓国の事例やデータからの考察ですが、そっくりそのまま日本の話と言われても違和感がなかったです。

この記事では 『失われた賃金を求めて』 の要約を紹介します。

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要約①:能力があれば男女関係なく成功できるは本当?

 

男女の賃金格差は事実として存在します。日本では男性を100とした場合、女性の賃金は75.2です。(2021年)

参照元:男女間賃金格差(我が国の現状) | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)

それでも、男女の賃金格差はないと主張する人たちが一定数存在し、その根拠には次のようなものがあります。

・能力がない(から賃金に差があるのは当然で差別ではない)

・出産で仕事を離れる期間がある

・女性は高収入の職種を選ばない など

能力があれば男性と同じ賃金を得られるはずなのだから、女性の賃金が低いということは女性に能力がないことの証拠だ、という主張です。そのような主張をする人にとって、女性の管理職の枠を定めるクォータ制は男性に対する逆差別ということになります。

格差がないと叫ぶ人々が実際に言いたいことは「男性は女性より多くの所得を手にしていない」ということではなく、「所得に差があるのは性差別のせいではない」ということなのだ。

たしかに、男性と同じように活躍している女性もいます。しかし、その女性たちは男女の賃金格差がないという根拠ではなく、その女性たちがしてきた人並み以上の努力や経験した不当な扱いが性差別の根拠になるのです。

 

女性の能力が低いのではなく、女性にとって不利な評価基準がしなくてもよい努力を女性たちに課しています。「女性に任せて大丈夫か?」に打ち勝つための、男性はしなくてもよい努力が、女性には必要なのです。

 

たとえば、次のような言葉を男女逆にしたらどう感じるでしょうか。

一人前の男より仕事ができる⇔一人前の女より仕事ができる

 

女性でもリーダーになれる ⇔男性でもリーダーになれる

同じくらい不自然に感じないとしたら、そこには差別が存在します。

差別は、「女性だってできる」ことを誰かが証明したときでなく、そのことばが「男性だってできる」に言いかえたときと同じくらい変に聞こえるようになったときにはじめて姿を消す。

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要約②:女性の成功は例外扱いされる

 

男女の賃金格差の要因の1つに、女性の昇進しにくさがあります。

女性の成功は例外扱いされて割引されるため、同じことを達成しても男性より評価が低いのです。

マチルダ効果

女性科学者の業績は男性の同僚のおかげにされてしまう偏見

マチルダ効果の例としては、DNA構造を発見したロザリンド・フランクリンが有名です。

 

女性作家が男性名で発表するのも、マチルダ効果を避けるためと言われています(シャーロット・ブロンテやハリーポッターのJ.K.ローリング)。

本の中で紹介されていた、韓国の男性作家から女性作家への賛辞が象徴的でした。

女性作家が陥りがちないくつかの文学的な陥穽を十分に飛び越えた

もっと身近なところでは、”女性が好きそうなもの”という評価にも、女性が好きそうなものは価値が低いという含意がある時があります。女性人気に支えられている俳優は本物ではない、というような偏見、男性が評価してこそ本物という偏見がないでしょうか?

ある成功が「真っ当」と認定されるには、男性の関心、男性の基準を満たしていなければならないからだ。男性の好みを充足させるものは普遍的で芸術的だが、女性の観点があらわれた作品は「女性用」で普遍的なものにはなりえないとされ、格下げされる。

 

マチルダ効果とは反対に、男性にはマシュー効果(マタイ効果)が働きます。

マシュー効果、マタイ効果

最初に名声を得たものはますます名声を得られる。

マタイ書の「持っている者にさらに与えられ、持っていない者からは取り上げられる」 が由来。

目をかける側、評価する側は男性が多数です。男性が男性に目をかけられるほど、その男性はより多くのチャンスに恵まれ、結果も不平等になります。

男女の結果の不平等(賃金格差)は能力の差ではありません。評価基準の差、与えられるチャンスの差です。

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要約③:男性が昇進するほうがなんか自然という刷り込み

 

女性には”ガラスの天井がある”とよく言われますが、男性には”ガラスのエスカレーター”があります。

ガラスの天井

能力や実績があってもマイノリティは一定以上の昇進ができない組織内の壁

 

ガラスのエスカレーター

女性が70%以上の職場で男性が早く昇進する現象

ガラスのエレベーターが存在するのは、「なんか男性が昇進する方が自然」という社会的な文脈が原因です。

たとえば、会長は男性で副会長は女性、カフェで男性と女性の店員がいたら男性が店長だと思いこんでしまう等、女性自身でさえ男性の地位が高い=自然に感じてしまいます。

「なんとなく男はこのくらいの待遇にしておくべき」という学習された合意が、優遇されていない男性を見ると居心地が悪くなる私たちの心理が、思いのほか大きく作用していることを認めたほうがいい。

男性が昇進する方が自然なのは、男性生計扶養者モデルの影響が大きいです。

男性生計扶養者モデル:男性が生計を支え、女性が家庭を守る

男性生計扶養者モデルが時代遅れなのは多くの人が同意すると思いますが、それでも男性の地位はこのくらいあるべきという先入観は存在します。

男性生計扶養者モデルの問題点は、生計を支える人が優遇されることではありません。実際に生計を支えているかに関係なく、男性に優遇していることが問題です。

このモデルで恩恵を受けるのは、独身男性とゲイカップルです。反対に、シングルマザーや女性が生計を支えている家庭は冷遇されていることになります。

『失われた賃金を求めて』 の次に読むなら?おすすめの本3選

 

『失われた賃金を求めて』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。

差別はたいてい悪意のない人がする

 

”悪意なき差別主義者”がどうして生まれるのか、そして差別的な感情とどう向き合えばいいかを考えられる本です。

自分の前提が絶対であると信じたうえで公平を語ると、誰かにとっては不公平な世界になるかもしれません。

 

人はかんたんに差別してしまうからこそ、差別が潜んでいないかに意識を向けるのが重要です。

参考記事:『差別はたいてい悪意のない人がする』の要約まとめ:誰でも差別主義者になりうる

 

差別の哲学入門

 

哲学的に考えるとは、まず差別を定義して明確にし、その前提になっていることを問い直すような態度のことです。

差別とはどういうものか?/差別はなぜ悪いのか?/差別はなぜなくならないのか?という3つの問いを立て、実際の事例や思考実験をしながら差別の正体を明らかにしていきます。

 

一緒に考える授業を受けているようで、とても読みやすいのに気づきが多い本でした。

参考記事:『差別の哲学入門』の要約まとめ:差別とはどういうものでなぜ悪いのか

「アンコンシャス・バイアス」マネジメント

 

アンコンシャス・バイアスとは無意識の思いこみや偏見のこと。

たとえば、次のようなものがあります。

・事務は女性社員の仕事

・育児休暇を取る男性は出世欲がない

・今どきの若者は打たれ弱い

・今までのやり方が正解だ

・小さい子どもがいる社員は忙しくない部署を希望するはずだ など

バイアスを持ったままマネジメントするとメンバーの力を十分に発揮できず、生産性が低下します。

多様な価値観を活かすためにアンコンシャスバイアスに気づいて対処するマネジメントがわかる本です。

参考記事:『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』の要約:最高のリーダーは自分を信じない

 

★今回紹介した本★


 

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