『差別の哲学入門』の要約まとめ:差別とはどういうものでなぜ悪いのか

『差別の哲学入門』の要約まとめ:差別とはどういうものでなぜ悪いのか

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『差別の哲学入門』は、差別の根本問題を哲学的に考えられる本。

哲学的に考えるとは、まず差別を定義して明確にし、その前提になっていることを問い直すような態度のことです。

差別について3つの問いを立て、実際の事例を考えたり思考実験をしたりしながら多角的に考察しています。

★ 『差別の哲学入門』 の要約ポイント★

 

・差別とはどういうものか?

 

・差別はなぜ悪いのか?

 

・差別はなぜなくならないのか?

情報収集のために読む本というより、「ああでもない、こうでもない。こういうケースはどうだろう?」と一緒に考えながら読む本です。

この記事では 『差別の哲学入門』 の要約を紹介します。

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要約①:差別とはどういうものか?

 

差別とはなんですか?と聞かれたら、どう答えますか?

差別の哲学入門は、差別とはどういうものか?を明確にするところから始まります。これは過少包摂と過剰包摂を防ぐためです。

過少包摂:本来差別であるものを含めない

 

過剰包摂:差別でないものまで含めてしまう

よく考えれば差別とは言えないものを、かたちだけの類似性から差別だと即断してしまうと、なんでもかんでも差別だという結果になり、「差別」という概念が空洞化したり、本当に悪質で反対すべき差別がどれであるかわからなくなってしまったりします。(中略)問題の差別を差別として明確にし、瑣末なものとして見逃さないようにすること。これが哲学的分析の目標の一つです。

 

差別には、何らかの特徴に基づいて区別し、一方に不利益を与えるという特徴があります。

しかし、何らかの特徴に基づいて一方に不利益を与えていても、差別というには違和感があるものもあります。たとえば、学力テストで80点以上を取った人が合格し、80点未満は不合格になることを差別と感じる人はほとんどいないでしょう。

何らかの特徴は、生まれつき変えられない(身体的特徴など)という条件がありそうですが、宗教など自分で選択できる特徴に基づく差別もあります。

 

差別とは何か?を考えるための事例が紹介されていますが、ここではアファーマティブアクションいじめを紹介します。

アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置):

マイノリティを優遇すること(入試、採用、昇進など)

たとえば、女性枠や有色人種枠が設けられている大学の入試を考えます。女性や有色人種枠に該当しない希望者が、マイノリティより能力が高いのに不合格になっていたら、不合格になった希望者は性別や人種という特徴に基づく区別により不利益を被ったと言えます。

 

しかし、アファーマティブ・アクションを他の人種差別と同じだ、というには違和感がありますよね。アファーマティブアクションは賛成派と反対派でいまも意見が分かれています。

アファーマティブ・アクション賛成派の主な主張

・現実の違いの是正ができる

・過去の差別の補償である

・多様性のある社会につながる

しかし、過去の差別の加害者と現実に不利益を被る人が異なること、多様性のある社会を実現するためにアファーマティブアクション以外の選択肢も取り得ることから、アファーマティブアクションに反対する人もいます。

 

次に、いじめは差別といえるか?を考えます。

いじめと差別には一方的であること、固定化されていることが挙げられます。

AくんとBくんがお互いを同じように叩いたら、それはいじめというよりケンカです。今日はAくんがBくんに泣かされたけど、次の日はBくんがAくんに泣かされて帰ってきたら、それも仲が悪いとはいえいじめとは表現されないでしょう。

いじめはいじめる方が一方的にいじめて、その関係性が繰り返されるという特徴があり、差別と共通しています。また、肌の色の違いからいじめられる等、差別がいじめのきっかけになるという関係性もあります。

 

いじめと差別の相違点は、集団性と歴史的背景です。

いじめは学校や職場など限られた集団の中で起こるため、転校や転職などで環境を変えることで終わることもあります。しかし、差別は社会的、歴史的に根付いていることが多く、いじめより広い範囲で突いて回ることでしょう。

 

差別と言えるかあいまいなものと比較することで、何が差別で何が差別ではないかを考えてみましょう。『差別の哲学入門』では、他にも女性専用車両やハラスメント、ヘイトスピーチの考察が載っています。

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要約②:差別はなぜ悪いのか?

差別はなぜ悪いのか?には代表的な4つの説があります。

①心理状態説:差別する人に悪意があるから悪い

 

②害説:差別される人が害を被るから悪い

 

③自由侵害説:人権を侵害するから悪い

 

④社会的意味説:社会状況や歴史的経緯に依存する

どれもうまく説明できる部分とできない部分があります。1つずつ紹介します。

①心理状態説:差別する人に悪意があるから悪い

心理状態説は、差別の悪の根拠を差別する人の心理状態で説明します。

差別は、差別する人に悪意や偏見があって相手を対等に扱っていないから悪いという理屈です。

 

とてもわかりやすくて直観的には正しそうなのですが、必ずしも悪意がない差別もあります。

アファーマティブ・アクションは現実の格差を是正しようという意図で、マジョリティを迫害してやろう!と思ってやっているわけではありません。間接差別や統計的差別が含まれないという欠点もあります。

間接差別:直接的に差別的な待遇をしていないが結果的に一方が不利益になる

身長170cm以上の要件で採用すれば、必然的に男性が多くなります。170cm以上しか扱えない機械を操縦する必要があるから、という明確な理由があっても、その機械が170cm以上しか扱えないように作られていることがそもそも差別の結果なのかもしれません。

 

統計的差別:事実を元に合理的に判断した結果、一方が不利益になる

”女性は妊娠して退職する可能性があるから昇進させない”という差別が起こると、女性社員のモチベーションが下がって本当に妊娠をきっかけに辞めてしまう数が増えます。そうすると差別の根拠にますます信ぴょう性を持ってしまう悪循環が起こります。女性に悪意があるわけではないですが、妊娠して退職した数のデータを元にしているだけ、差別と気づきにくいです。

②害説:差別される人が害を被るから悪い

害説は、差別される人が害・不利益を被るから悪いという理屈です。

差別する人の意図がどうであれ、差別される人が害を受けたら差別だというのはわかりやすいですよね。これなら間接差別や統計差別も含めることができます。

 

しかし、本人が害を感じない差別も存在します。たとえば、差別されていると認識できず、仲良くしてもらっていると勘違いしているケースを害説で考えると、差別ではないことになってしまうでしょう。

このケースを解決するために、本人が害を感じているかに関わらず、人間の望ましい状態を満たしていなければ害と考えるという客観的リスト説があります。人間の望ましい状態、たとえば健康、教育などを客観的にリストにしてそれが侵害されたら害である、というものです。

客観的リスト説をもっと広く、人権や選択の自由に広げたのが自由侵害説です。

③自由侵害説:人権を侵害するから悪い

自由侵害説は、差別が自由や基本的自由を侵害するから悪いという説です。

たとえば、”女性はレジ打ち、男性は品出しの仕事で、待遇は同じ”という求人募集があるとします。求人の主に性差別の悪意はなく、待遇も同じなので一方が害を受けているとも言えません。

この場合、自由侵害説なら女性が品出しの仕事を選ぶ自由/男性がレジ打ちの仕事を選ぶ自由を侵害していると説明できます。

 

自由侵害説のデメリットは、アファーマティブアクションも差別になってしまう点です。

女性を優先して大学に合格させる場合、その女性よりも成績が優秀な男性が進学する自由を侵害してしまう恐れがあります。

④社会的意味説:社会状況や歴史的経緯に依存する

最後の社会的意味説は、他者を対等な人格としてみなさないという社会的意味を共有して差別になるという説です。

たとえば差別的な言葉やジェスチャーは、それが意味するところを共有していない人にとっては意味が通じません。”「独創的差別」は成り立たない”という表現がわかりやすかったです。

(前略)哲学の立場からポール・ウッドルフは、悪質な差別行為とはパターン化されたものだと指摘していました。ある集団に対する差別行為というのは、単独の行為として遂行されることはありえず、時間をかけてパターンになることで悪質な行為になり、その集団の人々に大きな負担をかけることになる、というのです。

社会意味説には、社会的な意味はどうやって決まるのか?という批判もあります。

 

いつどの説がしっくりくるかは、何が悪質な差別かという歴史の共通了解があります。そのような意味で、差別とは歴史や社会的文脈と切り離せないのかもしれません。

要約③:差別はなぜなくならないのか?

 

差別がなくならない主な理由として、差別している人に自覚がないこと、差別に反対するつもりが差別していることが挙げられます。

 

差別ではなく事実に基づいて判断しているつもりでも、その事実が差別を反映した結果になっているかもしれません。

事実に差別が含まれる例として、統計的差別や人種的プロファイリングがあります。

人種的プロファイリング:特定の属性の集団を捜査の対象にすること

外国人ばかりに職務質問をしているから検挙率が高いのに、外国人は犯罪率が高いという事実として扱われてしまう等のケースが考えられます。

 

また、差別に反対しているつもりが差別していることもあります。

カラーブラインドネス発言

映画『ザ・ヘイト・ユー・ギブ』で主人公の黒人の女子学生と、その恋人の白人の男子学生との会話。

 

白人男子学生「肌の色は見ていないよ」

黒人女子学生「わたしの黒さを見ないなら、あなたはわたしを見ていない。」

この男子学生は、差別をしないという意味で「肌の色は見ていないよ」と言ったのですが、女子学生は明らかに失望しています。

「人種は関係ない」、「あなたはあなた」などの発言は、歴史や現実の違いを軽視するように聞こえてしまい、マイクロアグレッション(軽微な攻撃)になっている可能性があるのです。

(前略)相手を同等の道徳的価値をもつ存在として扱うことは、背景や歴史を欠いた無色透明の個人として扱うことではありません。むしろ、肌の色や出自のような特徴によって区別された現実を生きる存在として、その現実について語りうる主体として尊重することを要求しています。

 

差別をなくすために何ができるか?のヒントとして、接触理論が紹介されています。

接触理論:

相手を知ればカテゴリー化した単純な見方ではなく、個人を見るようになる

特に、学校や会社のような制度的な環境のなかで共通の目標を追求する共同の活動をともに行うことが効果的です。

一緒に同じものを見て、自分とは違う観点から世界を見ている1人の人間として接することで、社会的に刷り込まれた偏見を新しい習慣で上書きすることができるのではないでしょうか。

通常、他人が泣いているのを見ることは、その人が痛みで苦しんでいたり、悲しんでいたりすることを知ることです。どんな痛みなのか、なぜ悲しんでいるのか、私には決して完全にはわかりません。私の思い込みには回収できない、その人の感情や思いが見えては隠れます。他人とはそもそもそういう存在だったはずなのであり、だから、相手を決めつける偏見の目で見ることは、見られる側にとっても見る側にとっても「自然な反応」などではないのです。むしろ、偏見の目で見ることは、他人への歪んだ態度が社会のなかで学習され、習慣化されたものです。

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『差別の哲学入門』 の次に読むなら?おすすめの本3選

 

『差別の哲学入門』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。

①『差別はたいてい悪意のない人がする』

 

”悪意なき差別主義者”がどうして生まれるのか、そして差別的な感情とどう向き合えばいいかを考えられる本です。

自分の前提が絶対であると信じたうえで公平を語ると、誰かにとっては不公平な世界になるかもしれません。

 

人はかんたんに差別してしまうからこそ、差別が潜んでいないかに意識を向けるのが重要です。

参考記事:『差別はたいてい悪意のない人がする』の要約まとめ:誰でも差別主義者になりうる

②『多様性の科学』

 

多様性がある環境をポジティブに活用すれば、新しい視点がもたらされて今まで思いつかなかったアイディアが生まれやすくなります。

多様性は差別の原因となる場合もありますが、ポジティブに活用することもできます。

個人的に、2021年おすすめベスト3に入ります!

参考記事:『多様性の科学』の要約と感想:多様性がなぜ必要なのか?がわかる本

③『「わかりあえない」を越える』

 

NVCを使えば、自分の感情に自覚的になり、率直にリクエストを伝えられます。

NVC(非暴力コミュニケーション):

自分の内側と外側に平和をつくる、思いやりのある与え合いのコミュニケーション

自己尊重と他者の尊重を両立させるコミュニケーションがわかる本です。

参考記事:『「わかりあえない」を越える』の要約まとめ:NVC(非暴力コミュニケーション)とは?

 

★今回紹介した本★

 

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