『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』は、
哲学者の谷川嘉浩さん、朱喜哲さん、公共政策学者の杉谷和哉さんの対話で構成されています。
ネガティヴ・ケイパビリティとは、”物事を宙づりにしたまま抱えておく力”です。
検索すれば瞬時にさまざまな情報が手に入る現代において、答えに飛びつくのを立ち止まって不確実さのなかに留まるのはとても難しいですよね。
ネガティヴ・ケイパビリティの重要性をさまざまな観点から考えられる本です。おもしろかったです。
★ 『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』 の感想★
・ネガティヴ・ケイパビリティは一問一答を超えた局面で発揮される
・アテンションエコノミーは対象を消費する
・1つの世界に浸りきらず、自己を相対化する
おもしろかったところを書きます。
読もうか迷っている人の参考になればうれしいです。
この記事では 『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』 の感想を紹介します。
目次
ネガティヴ・ケイパビリティは一問一答を超えた局面で発揮される
ネガティヴ・ケイパビリティという言葉は、19世紀のイギリスの詩人、ジョン・キーツが最初に使ったそうです。
「事実や理由に決して拙速に手を伸ばさず、不確実さ、謎、疑いの中にいることができるとき」に見出せる能力
複雑な問題も、単純な二項対立で賛成派/反対派がぶつかり合い、SNSで激論が交わされます。実際にはお互いの言いたいことを言っているだけで議論にはなっておらず、インターネットは分断を加速されたように感じます。
マスターアーギュメント(これさえあれば全てすっきり説明できる)に飛びつきやすく、一問一答的なコンテンツが人気ですよね。
たとえば「これだけやっていれば大丈夫!」「〇〇だけあればいい」「問題はすべて〇〇のせいだった」など、とてもシンプルに説明できそうなコンテンツがあふれています。
情報にアクセスしやすくなったとしても、自分が変わることを許容せずに閉鎖的な空間に閉じこもっていたら、わかりやすくて一体感が得られるマスターアーギュメントに心酔してしまうかも、と心配になりました。
対話の最低限のマナーを持つことができるというのは、自分が変更に対して開かれているということです。そのためには自身に余裕や強靭さがあることによって、変わることの不安に向き合うことができる必要がある。
自分の軸足が定まらない感じを味わいながら、答えが何かわからない状態に身を置けるのは、そのわからなさを楽しめる余裕がある強い人と言えるかもしれません。
アテンションエコノミーは対象を消費する
アテンションエコノミーとは、注意を引き付けることが経済的価値につながることです。
たとえば、ネット上で注目を集めて広告収入を得る等があります。
炎上して注目を引くのは一過性ですが、プロセスから見せて応援してもらうプロセスエコノミーや応援消費というものもあります。
本の中で事例として挙げられていたのは「魔女の宅急便」です。
魔女の宅急便の主人公キキは、最後、みなに応援されながらほうきで空を飛びますよね。しかし、苦難を乗り越えるプロセスを応援して楽しむことは、キキを消費しているとも言えます。
誰かが立ち直ったり、苦難を脱出したり、悩みを解決したりするプロセスをエンターテインメントとして消費することは、困難は必ず解決せねばならないし、感じのいいパーソナリティへ至らなければならないという呪いを当事者にかけます。
もし最後までがんばったけど成功しなかったら、または、途中でキキが諦めたら、きっと聴衆はがっかりするでしょう。そのようなプレッシャーが、ときに対象を消耗させるのかもしれません。悪気はないからこそ、余計にたちが悪い気もします。
24時間テレビが感動の押し付けであると非難されるのを思い出しました。
わたしは24時間テレビがなぜか好きになれず、子どものころから避けていたのですが、その理由が分かった気がします。出演している障がい者の人が受けているだろうプレッシャーを、周りが全然考慮せずに応援している様子がなんだか居心地が悪いのだと思います。
1つの世界に浸りきらず、自己を相対化する
アテンションエコノミーの反動として、インテンションエコノミーという考え方があります。
アテンションエコノミー:売り手側「これ、おすすめですよ!」
インテンションエコノミー:買い手側「こういうのを求めています」
インテンションは意図という意味です。買い手側が自分の意図を伝えるのですが、自分のほしいものを考えて伝えるという負荷がかかります。
そこで、アテンションエコノミーには疲れたけど負荷がかからないかたちで、トラスト(信頼)が重要視されるようになりました。
「この会社が出す商品・サービスなら信頼できる」というブランドがトラストになります。しかし、思考停止でトラストすることは妄信の危険と紙一重です。
重要なのは、価値や権威に浸りきらずに自己を相対化することです。そのためにはいろいろなコミュニティに属して、多様なものの見方や表現の仕方を持っている必要があります。
いろいろなコミュニティに属し、それぞれの共同体の方言を身につけて多言語話者になることで、私たちは目の前の現実を多様な仕方で語ることができるようになるかもしれないし、他者に対して多様なアプローチで会話することができるようになるかもしれない。いろいろな仕方で現実と関わることができるからこそ、目の前の事柄や人物を、簡単にわかろうとも、安易に語ろうともせず、開かれた可能性の下で関わっていくことができるのではないか。
『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』 の次に読むなら?
『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『Listen』
良い聴き手になること、聴き手になるメリットがわかる本。
話を聴いてほしい、情報を受け取ってほしい人ばかりの社会で、人の話を本当の意味で聴ける人は貴重です。
わたしが初めてネガティヴ・ケイパビリティという用語を知ったのは、『LISTEN』がきっかけでした。相手をわかった気にならない、結論を急がないのは聴き手に必要な素質だと思います。
参考記事:『LISTEN-知性豊かで創造力がある人になれる』の要約:聞き上手な人の性格や特徴がわかる本
②『読書会入門』
読書会の魅力や読書会コミュニティの運営ポイントがわかる本。ハウツーよりも、読書会にまつわるエピソードに人同士のつながりの魅力が詰まっていると感じました。
読書会で多様なものの見方やあいまいに留まる力が養えます。この本にもネガティヴ・ケイパビリティが出てきます。
参考記事:『読書会入門』の要約と感想:読書会の魅力とコミュニティ運営について学べる本
③『共感という病』
共感したい人だけにスポットライトを当てることで他の人を排除してしまう、
共感を利用したマーケティングで共感疲労をしてしまう等、”共感にどこか感じていた違和感”が言語化されています。
『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』の中でも触れられていました。
参考記事:『共感という病』の要約:共感されない人をどうやって助けるか?【惻隠の情と社会規範】
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