『いじめを生む教室』は、さまざまなデータから日本のいじめ問題の現状と課題、
いじめ問題を解決するためのヒント・提言がまとめられた本です。
被害者/加害者の資質だけでなく、環境要因の重要性がわかりました。
”いじめ=嫌なもの”という認識で思考停止せず、冷静に原因分析と有効な解決策を考える姿勢を教えてくれます。
本気で解決したい!と思ったら、義憤や同情よりも冷静な対策が近道です。
★『いじめを生む教室』の要約ポイント★
・いじめが発生しにくい教室の環境をつくる
・精神論の道徳教育ではなく、共感性と適切な知識が身につける教育を
・ネットいじめはリアルないじめの延長線上にある
・先生が話を聞ける時間、知識を更新する時間を確保する
いじめ問題が多角的に理解できて読んでよかったです。
この記事では『いじめを生む教室』の要約まとめを紹介します。
目次
いじめ問題の現状と課題は?
日本におけるいじめ問題には、たくさんの課題があります。
・発生件数が正確にわからない
・被害者と加害者の心理に注目/環境要因が見過ごされがち
・メディアは深刻ないじめだけ取り上げる
・いじめ対策が道徳教育などの精神論に終始
いじめの発生件数が正確にわからない
文部科学省が出している統計データのいじめの件数は報告件数であり、
学校で認知したうち、行政に報告された件数だけです。
発生件数⇒認知件数(学校で認知)⇒報告件数(行政に報告)
発生件数を定期観測し分析することで、いじめが起こりやすい要因やいじめ対策が功を奏しているのかいないのか等がわかります。
逆に言えば、このような調査がなければ、いじめの原因分析や効果的な解決策の立案ができないのです。
被害者と加害者の心理に注目/環境要因が見過ごされがち
いじめ問題といえば、被害者と加害者の心理に注目されることが多く、
環境要因を分析・改善するアプローチがあまり取られませんでした。
いじめの原因には本人の資質と環境要因があります。
本人の資質:被害者/加害者本人に要因がある
環境要因 :教室や教員に要因がある
被害者になりやすい子や加害者になりやすい子(ハイリスク層)は存在するのですが、
教室や教員の言動を変えることでいじめが発生しやすい因子を減らすことはできます。
『いじめを生む教室』では、いじめが発生しやすい教室を”不機嫌な教室”、いじめが発生しにくい教室を”ご機嫌な教室”と表現しています。
不機嫌な教室の特徴
・先生がいじめを見逃している(いじめと認識していない)
・厳しい指導や校則でストレスが高い
・先生に話しかけにくい など
不機嫌な教室では抑圧された空気でストレスを感じやすいので、
ストレス発散が他者をいじる・からかう等の行動に紐づきやすいです。
先生がいじめに対して寛容であれば、加害者は「ここまではセーフ」と判断してますますエスカレートします。
道徳教育では善悪の区別に重きが置かれますが、いじめが悪いことというのはすでに知っているのです。
善悪とは別に、セーフ/アウトの線引きがあり、子どもたちは先生の態度から敏感に読み取っています。
ご機嫌な教室の特徴
・先生がいじめを見逃さない(エスカレートする前に制止)
・自分と違う他者への共感をうながす
・先生に話しかけやすい など
ご機嫌な教室では、先生がいじめに対して厳格に”アウトだ”と示します。
また、自分とは違う容姿や価値観を持つ人を受容できるような機会を与え、多様性を尊重します。
クラスの団結や道徳教育で”こうあるべき”を押し付けると、そこからはみ出している人は異質=わたしとは違うという分断を引き起こすかもしれません。
メディアは深刻ないじめだけ取り上げる
メディアの報道にも問題があり、
それは深刻ないじめ事件が発生したときだけ取り上げることです。
取り上げたときは世の中の関心を集めますが、いずれ別のニュースで記憶が薄れてしまいます。
そして、またいじめ問題が発生したら、
「被害者がかわいそう」、「加害者を厳罰に処すべきだ」等の感情論を繰り返します。
本当に報道すべきなのは、どうすればいじめを予防できるか、
もしいじめに遭ったらどう行動すればよいのか、などの役に立つ情報です。
いじめ対策が道徳教育などの精神論に終始
いじめ対策の王道といえば道徳教育です。
道徳の授業を増やせばいじめは防げるというのは本当でしょうか。
2011年に起きた大津市のいじめ自殺事件。それが起きた中学校は、文科省の「道徳教育実践推進事業」の指定校でした。この学校では、道徳教育の主な目標の一つとして、いじめのない学校づくりというものがうたわれていました。また、第三者によるいじめ報告書を読むと、いじめがエスカレートしたタイミングの一つが、道徳の授業の後であったことがわかります。
「友だちを大切にしよう」、「相手のことを考えよう」等の精神論では、
実際に行動が変わるのか疑問です。
いじめ予防=道徳教育という短絡的な発想はやめて、効果を測定しながら道徳教育も含めて他にもいろいろな選択肢を検討してほしいです。
データで読み解くいじめの傾向
『いじめを生む教室』では、さまざまなデータからいじめの傾向を紹介しています。
”いじめ”と聞くと、つい感情的な反応をしてしまいますが、
データから起こりやすい場所・時間・人などを知るのは新たな発見でした。
いじめについて正確に理解するのが大切ですね。
<いじめの特徴・傾向>
・いじめのホットスポット:教室、廊下・階段、クラブ活動
・いじめが起きやすい時間:休み時間、夏休み前後
・いじめが起きやすい年齢
中学1~2年(文科省)、小学校高学年(アンケート)
・いじめは9割が経験する(短期間)が、ずっといじめられる子どももいる
・いじめ被害者のハイリスク層
LGBT、外国人、吃音、発達障害、社会的スキルが低い
・いじめ加害者のハイリスク層
授業についていけない、家庭でストレスを抱える(暴力、貧困、過干渉など)
・いじめはエスカレートする(小さくはじまって徐々に育つ)
いじめが起きやすい年齢は、文科省の調査では中学1~2年生ですが、
生徒へ直接取ったアンケートの結果は小学校高学年でした。
これは、小学校の先生のほうがいじめの認識が甘い(小学生だから仕方ない、いじめではない)という認知ギャップであると推測されます。
小学校高学年から早期発見してほしいですね。
いじめの解決策
『いじめを生む教室』で提言されているいじめの解決策のポイントをまとめました。
<いじめの解決策>
・いじめに遭ったときの相談方法を伝える
・いじめ被害を仮想的に体験する
・ストレス要因を取り除く(厳しい指導、抑圧的な態度など)
・教師の負荷を減らす
・共感性と適切な知識を得られる機会をつくる
1つずつ紹介します。
いじめに遭ったときの相談方法を伝える
いじめに遭ったとき、実際にどう行動すればよいかを伝えることは重要です。
いじめはエスカレートする前の早期発見・早期介入がポイントであり、
相談する方法が明確であれば、早期発見につながります。
「先生に言うとますますいじめられる」と考えてしまうかもしれませんが、
本書に紹介されているデータによれば、先生に相談した6割強で改善がみられています。
(悪化したのは6.5%)
多くのケースでは、いじめに遭ったら先生に相談するほうが良いです。
いじめ被害を仮想的に体験する
いじめを目撃したとき、いじめ被害の経験がある人は被害者に同情し、
力になろうとする割合が増えます。
一方、いじめ被害の経験がない人は、
”いじめられる人にも原因がある”に肯定的に答える割合が増えるのです。
いじめ被害を仮想的に体験することで被害者側の気持ちが分かり、
共感力が上がると考えられます。
いじめの傍観者が仲裁者や通報者、シェルターやスイッチャーなど、
より被害者に寄り添える役割に転換すれば、いじめが起こりにくい環境になります。
・傍観者:見て見ぬふりをする
・仲裁者:いじめを止めさせようとする
・通報者:いじめを知らせる
・シェルター:被害者に「あなたの友人である」と伝える
・スイッチャー:いじめが起こりそうな雰囲気を転換する
ストレス要因を取り除く(厳しい指導、抑圧的な態度など)
ストレスは不機嫌な教室に欠かせない要素です。
体罰や厳しい指導・校則は子どもたちにストレスを与え、
ストレスを発散する手段としていじめにつながるリスクがあります。
また、”暴力や権力で人を服従させてもいい”という誤った価値観を与えてしまうかもしれません。
厳しい指導をされた子どもがストレス発散でいじめ加害者になる場合もあれば、厳しい指導が”あの子はいじめてもいいんだ”というラベリングになり、いじめ被害を助長してしまう恐れもあります。
子どもたちの自主性を認める、価値観の押し付けをしない、学校以外のストレス発散の場所を提供する等、いじめの温床であるストレスを軽減しましょう。
教師の負荷を減らす
いじめの対策には早期発見・早期介入が重要であり、
先生が話しやすいクラスではいじめが発生しにくいこともわかっています。
ただ、現在の日本の先生は忙しく、子どもたちの様子を注意深く観察する、話を丁寧に聞く等の時間を確保するのが難しいかもしれません。
また、教育学の知識をアップデートしたり、自分の指導を見直したりするなどの時間も必要です。
いじめが発生すると「なぜ担任の先生が気づかなかったんだ!」と非難されがちですが、
本質的に教師がやるべきこととやらなくてもいいことを分けて、
時間の余裕をつくることが先決だと思います。
共感性と適切な知識を得られる機会をつくる
社会的マイノリティはいじめのハイリスク層です。
たとえ自分と違う価値観を持っていても共感して尊重でき、
どう接すれば良いのかという知識を身につけると、いじめは起きにくいでしょう。
共感性:相手の気持ちを想像できる、自分と同じように傷つく人間
適切な知識:どう接すればよいか
どんなことが嫌だと感じるのか、何を大切にしているのかがわからないと、
どう接していいかわかりませんよね。
大人が相互理解をサポートする必要があります。
また、メディアなどの影響で偏見に満ちたラベリングに気づいたら、
不適切なラベリングを剥がすのも大切です。
議論のテーマにはいいかもしれませんが、子どもに見せたくありません。
まとめ:いじめの起きにくい環境をつくる
【いじめ問題の課題】
ー発生件数が正確にわからない
ー被害者と加害者の心理に注目/環境要因が見過ごされがち
ーメディアは深刻ないじめだけ取り上げる
ーいじめ対策が道徳教育などの精神論に終始
【いじめの解決策】
ーいじめに遭ったときの相談方法を伝える
ーいじめ被害を仮想的に体験する
ーストレス要因を取り除く(厳しい指導、抑圧的な態度など)
ー教師の負荷を減らす
ー共感性と適切な知識を得られる機会をつくる
いじめがどう起こるのか、データを元にどんな解決策が効果があるのかがわかる本でした。
「子どもがいじめられそうで心配…」と漠然と不安になるよりも、
問題をなるべく正確に理解しようとするのが大事ですね。
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