『デザイン思考が世界を変える』は、デザイン思考が今までの製品・サービスの作り方とどう違うか、そしてこれからなぜ求められるのかがわかる本。
デザイン思考は人間理解から出発し、
機能的価値から経験・感情的価値への転換を図ります。
著者はデザインコンサルティングファームのIDEO(アイデオ)のCEO、
ティム・ブラウンさんです。
IDEOはデザイン思考を使ってさまざまな組織の課題を解決したり、
新規事業をサポートしたりしています。
⇓IDEOがデザインした、子どもでも怖くないMRI
MRIに入るときの子どもの恐怖(暗い、狭い、大きな音、じっとしていないといけない)を
冒険のワクワク感に変えています。
人間がどう感じるか、どう行動するかを観察し、
サービスに意味的な価値を与える、意味づけを変えるのがデザイン思考です。
『デザイン思考が世界を変える』は2014年に発行されました。
2019年にアップデート版が出ています。
旧版にはなかった11章が付け足されています。
★『デザイン思考が世界を変える』の要約ポイント★
・デザイン思考は着想・発案・実現を行ったり来たりする探究プロセス
・デザイン思考は洞察・観察・共感などの人間理解から始まる
・感情的な要素を大切にして、商品(名詞)ではなく経験(動詞)をデザイン
「自分のアイディアは平凡で陳腐な気がする…」
と感じている人におすすめです。
この記事では、『デザイン思考が世界を変える』の要約を紹介します。
目次
『デザイン思考が世界を変える』の要約
『デザイン思考が世界を変える』の要約ポイントは下記のとおりです。
★『デザイン思考が世界を変える』の要約ポイント★
・デザイン思考は着想・発案・実現を行ったり来たりする探究プロセス
・デザイン思考は洞察・観察・共感などの人間理解から始まる
・感情的な要素を大切にして、商品(名詞)ではなく経験(動詞)をデザイン
1つずつくわしく紹介します。
デザイン思考は着想・発案・実現を行ったり来たりする探究プロセス
デザイン思考には決まった手順やプロセスがありません。
着想・発案・実現の3つの空間を非直線的に行き来するなかでアイディアを形にしていきます。
着想(inspiration) :情報収集して洞察を得る
発案(ideation) :洞察をアイディアにする
実現(implemation):アイディアを実行計画にして市場に送り出す
上から順に行われるわけではなく、プロトタイプを作る・テストするなどの過程で得られた情報を元にまた戻ったりしながら進みます。
プロトタイプは最終段階の試作品で市場に受け入れられるかを試すもの、
ユーザビリティや外観デザインを改善するものというイメージでした。
しかし、もっと早い段階で目的を限定したプロトタイプを作るのが、
デザイン思考では有効なアプローチです。
プロトタイプ製作の目的は、実用的な模型を作ることではない。アイデアを形にし、強みと弱みを明らかにし、より精巧で緻密な次世代のプロトタイプの方向性を明らかにすることだ。したがって、プロトタイプの範囲は絞る必要がある。初期のプロトタイプの目的は、アイデアに実用的な価値があるかどうかを把握することだ。
従来の、マイルストーン(中継地点)を設定する直線的な進め方とはだいぶ違います。
そのため、雲をつかむような状況に一時的にチームの士気が下がることもあるそうです。
デザイン思考は洞察・観察・共感などの人間理解から始まる
デザイン思考は人間中心のアプローチであり、内なるニーズを発見するところから始まります。
内なるニーズを発見する要素は以下の3つです。
・洞察(insight) :行動の背景や心理を深く理解する
・観察(obsevation):質を重視、極端な利用者を観察する
・共感(empathy) :徹底的に他者の視点に立つ
すべてに共通しているのは、情報の量ではなく情報の質にこだわるという点です。
身の回りにある当たり前の行動について、「どうしてそんな行動をしているのか?」と深く考えていきます。先入観を疑い、どこからでも洞察を得る心構えが重要です。
極端な利用者(extreme user)を観察すると、たくさんの洞察が得られます。
たとえば売れるキッチン用品を考えようと思ったら、一番の購買層(日常的に料理をする主婦)を観察しがちですよね。
しかし、キッチン用品をコレクションしているようなマニアからの意見を聞くことで、主婦からは得られなかったアイデアが生まれることがあります。
標準偏差から外れた人は異なるものの見方や情熱を持っており、それがインスピレーションにつながるのです。
さらに、他者の視点に立って他者の感情を感じることも内なるニーズに気づく有効な方法です。
感情的な要素を大切にして商品(名詞)ではなく経験(動詞)をデザイン
これからの時代は、高機能なものより価値のある経験を作り出せるものが選ばれます。
20世紀のモノが足りなかった時代では、テクノロジー中心で商品やサービスが開発されてきました。
しかし、ほとんどの国で物質的なモノは十分にあり、使いこなせないほどに高機能になりました。
テクノロジー中心の商品開発では、遅かれ早かれ他社と同じところに行き付きます。
店員さんの説明がないと理解できない違いに
なんの意味があるでしょうか。
人々への理解や共感をベースに経験をデザインする商品やサービスが選ばれる時代になる。
だからデザイン思考が大切なのです。
IDEOの設立者ビル・モグリッジさんの言葉が引用されています。
モグリッジは常に私たちにこう繰り返した。
「私たちがデザインしようとしているのは、名詞ではなく、動詞なのだ」
つまり、電話ではなく誰かと会話すること、食べ物ではなく楽しく食事すること、
椅子ではなく快適に仕事をしていることをデザインするということ。
機能的なモノというだけで売れた時代は終わり、
最近は製品とサービスの境界があいまいになっているそうです。
製品をどう使って利用者の生活がどう豊かになるかをデザインし、
そのストーリーを伝える必要があります。
商品を知る・買う・使う・保管するなど様々な面で人間理解に基づいたデザインがある商品は、顧客体験の価値が向上し、生活に溶け込む・長く愛される商品になれそうですね!
『デザイン思考が世界を変える』:デザインをデザインし直す
『デザイン思考が世界を変える』のアップデート版では、
”11章 デザインをデザインし直す”が追加されています。
この章では、これからデザイン思考がどんな分野で効果を発揮できるかがテーマです。
・教育システムの再デザイン
・民主主義の再デザイン
・自動運転の都市のデザイン
・人工知能の再デザイン
・誕生と死の再デザイン
・未来の再デザイン
デザイナーはテクノロジーを人間にとってより分かりやすく・楽しくする役目を担う。
これは『ライフシフト2』にあった、社会的発明に通じます。
技術的発明:テクノロジーの進化
(例)コンピューターの処理速度向上、AI 技術の発達、機械学習、医療の進歩・長寿化など
社会的発明:新しい生き方の発見、創出
技術的発明の恩恵を受けるために、個人レベルでも企業や政府など組織レベルでも必要
技術的発明(テクノロジー)の恩恵を受けるには、
テクノロジーから人間が価値を引き出せる新しい生き方の発明が必要です。
人間中心のデザイン思考が有効なアプローチになるでしょう。
⇓『ライフシフト2』の要約はこちらにまとめています。
参考記事:ライフシフト2の要約:人生100年時代の行動戦略を自分でデザインしよう
フィンランド出身の建築家エーロ・サーリネンは、
父親から次のようなアドバイスをもらったそうです。
何かをデザインするときは、常にもう一つ大きな文脈を意識しなさい。
昔のデザイナーは本の表紙のデザインを頼まれたかもしれません。
本棚の中の本、本屋さんの中の本棚、商店街の中の本屋、町の中の商店街、というように、1つ大きな文脈を意識することで文脈に合ったデザインが出来上がります。
デザイナーの境界がどんどん広がっていて、
特定の商品ではなく複雑なシステムにデザインが求められています。
『デザイン思考は世界を変える』のオーディオブック
『デザイン思考は世界を変える』は耳で聴けるオーディオブックがあります。
『デザイン思考は世界を変える』は聞き放題対象外ですが、
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『デザイン思考が世界を変える』の次に読むなら?
『デザイン思考が世界を変える』とあわせて読みたい2冊を紹介します。
①『マイノリティデザイン』
弱さを社会の伸びしろと捉えて生かす社会つくりがテーマの本です。
マイノリティデザインとは、弱さと誰かの強さを組み合わせること。
マイノリティの困りごとに寄り添ってニーズを発見することで、
マイノリティに留まらず、社会を便利に快適にするアイディアが生まれます。
参考記事:『マイノリティデザイン』の要約:弱さは誰かの強さを引き出す力である
②『プロセスエコノミー』
商品やサービスの物質的なクオリティが変わらなくなるにつれて、
人間理解や共感をベースに経験価値が選ばれるようになります。
レストランで完成した料理を食べるより、バーベキューで一緒につくりたい!
そんな時代の変化が感じられる1冊です。
参考記事:『プロセスエコノミー』の要約まとめ:自分のこだわりを持って共感する理由をつくる
まとめ:人間中心のデザインプロセスで社会を豊かに
・デザイン思考は人間中心、人間理解のアプローチ
・画一的な手順やプロセスはなく、着想・発案・実現を行き来する
・デザイン思考は洞察・観察・共感をキーワードに内なるニーズを発見する
・人間理解と共感をベースに経験をデザインする
・名詞ではなく動詞で考える
・アップデート版では”11章 デザインをデザインし直す”が追加された
-デザインの範囲は複雑なシステムの再デザインに広がっている
-もう1つ大きな文脈を考えてデザインする
具体的なハウツー本を期待して読むとがっかりするかもしれません。
ただ、この本を読めばデザイン思考の画一的なハウツー本は存在しないとわかります。
デザイン思考のツール(ストーリーボードやカスタマージャーニーマップなど)はありますが、デザイン思考はプロセスというより哲学・思想です。
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