『Humankind 希望の歴史』は、人は本質的に善か悪かをテーマにした本。
著者はオランダ出身の歴史家でジャーナリストのルトガー・ブレグマンさんです。
性悪説・人は本来利己的であるといった説が常識として信じられており、
経済学や経営学、政治なども性悪説をベースにしています。
しかし、『Humankind 希望の歴史』では性悪説の根拠を1つ1つ覆し、人は本質的には善であること、その前提を元に社会を再構築すればもっと良い世界になることを示しています。
性悪説を覆していく様は推理小説を読むようで引き込まれました。
★『Humankind 希望の歴史』の要約ポイント★
・人の本質は善である
・世界の見方は世界がどうなるかに影響する(自己成就的予言)
・悪人になるには心理的な距離と善に見える根拠(共感、仲間意識)が必要
・信頼と交流をベースに社会を構築する
上下巻であわせて500ページ弱ありますが、あっという間に読めます。
読後は世界がいちだんと明るく見えます。
この記事では、『Humankind 希望の歴史』の要約と感想を紹介します。
目次
『Humankind 希望の歴史』の要約
『Humankind 希望の歴史』の要約ポイントは次のとおりです。
★『Humankind 希望の歴史』の要約ポイント★
・人の本質は善である
・世界の見方は世界がどうなるかに影響する(自己成就的予言)
・悪人になるには心理的な距離と善に見える根拠(共感、仲間意識)が必要
・信頼と交流をベースに社会を構築する
1つずつくわしく紹介します。
人の本質は善である
『Humankind 希望の歴史』の一貫した主張は、”人の本質は善である”ということ。
ホッブズの性悪説よりルソーの性善説が正しい、と主張しています。
ホッブズの性悪説:
人間は自分の欲求に従って利己的に行動するから他者と衝突する。
秩序のある生活をするには法や社会制度、文明が必要。
ルソーの性善説 :
自然状態での人は平和で幸せだった。
社会制度や文明が人をより欲深く、悪人にしている。
ホッブズによれば文明化は野蛮な自然状態を終わらせる画期的なことであり、
ルソーによれば文明化は平和な自然状態に階層構造や所有欲を持ち込む災いであるということ。
ホッブズの考えを前提にした学問や社会制度が多い中で、
『Humankind 希望の歴史』ではルソーの性善説を支持しています。
そのために、性悪説の根拠とされるような研究や事例を詳細に調査し、
根拠が疑わしいことを明らかにしていくのです。
<『Humankind 希望の歴史』で取り上げられている事例の一部>
・『蠅の王』※はフィクションであり、本当に『蠅の王』の状況になった少年たちは互いに協力して1年以上も無人島で生き延びた。
・イースター島の文明崩壊は民族間の争いや木の過剰な伐採が原因ではなく、奴隷商人が引き起こした
・スタンフォード監獄実験、ミルグラムの電気ショック実験は実験方法に問題があった
など
※『蠅の王』は、無人島に置き去りにされた少年たちが対立し殺人にまで発展する悲劇的な物語。
性悪説の根拠を覆していく過程がスリリングで飽きずに読めますが、
なぜ著者はそこまで労力をかけて”人の本質は善である”と明らかにしたいのでしょうか。
それは、悲観的な性悪説で他者を見ると世界が本当にそうなってしまうからです。
ほとんどの人間は信用できない、とあなたが思うのであれば、互いに大してそのような態度を取り、誰もに不利益をもたらすだろう。他者をどう見るかは、何よりも強力にこの世界を形作っていく。なぜなら、結局、人は予想した通りの結果を得るからだ。 p.30~31
世界の見方は世界がどうなるかに影響する(自己成就的予言)
もし性悪説を信じている人ばかりの社会なら、
本当は性悪説が間違っていてもいつか性悪説のとおりの人だらけの社会になってしまいます。
出発点は間違っていても、自己成就的予言のようにいつか真実になってしまうのです。
不安や不信感が現実になってしまうことをノセボ効果と言います。
反対に、期待が現実になることはプラセボ効果と言います。
性悪説を信じていると、ノセボ効果で現実になってしまう。
性悪説が現実となった社会を想像してみれば、それがいかに不幸な社会かわかります。
<性悪説の典型的な考え方>
・人は監視していないと不正を働いたり、なまけたりする生き物だ。
・人は法や制度の規制がなければ、自分の利益をとことん追求する。
・人は放っておくと堕落するから、指導者・管理者が必要。
監視や規制が強化される⇒信用されていないと感じる⇒
本当になまけたり規制の抜け道を探すようになる⇒
さらに監視や規制が強化される・・・という負のループです。
残念なことに、今の社会は性悪説が優勢です。
キリスト教の教えでは、人は生まれながらに罪を背負って生まれてきます(原罪)。
(リンゴ食べちゃったやつですね)
経済学を学ぶ期間が長いほど利己的になるという研究もあるそうです。
また、ネガティブ・バイアスも性悪説を強化している原因の一つ。
ネガティブ・バイアス:
人はネガティブなものに注意を向けやすく、記憶に残りやすい
悪いニュースのほうが生命の危機に関わる可能性が高かったことから、
ネガティブなことを強く意識してしまう本能があります。
そして、現代ではその本能をニュースや広告に利用されているのです。
むしろ犯罪などのネガティブな事実が減ると、
ネガティブなニュースが増えるという負の相関関係まであります。
事実ベースの世界の見方については、
世界的ベストセラー『ファクトフルネス』のテーマでもあります。
【要約】ファクトフルネスの意味とは?批判も多いが読むべきベストセラー
もはやニュースは世界を正しく知るツールではないようです。
テレビの電源を切るだけで幸福度がとても上がった気がします。
ニュースやこれまでの常識にとらわれず、性善説を前提に他者を見れば、
他者はそのような人になり、世界全体が良くなっていく。
そんな希望を抱かせてくれる本です。
悪人になるには心理的な距離と善に見える根拠(共感、仲間意識)が必要
性善説を前提に他者と接する、と言っても、
実際には戦争や大量虐殺など性善説とは相反するような歴史があります。
人は本質的には善であっても、悪を実行してしまうことは否定できません。
なぜ悪人になってしまうか、その理由の1つは共感や仲間意識です。
政治的な主張・イデオロギーは重要ではありません。
テロリストを説得するには、イデオロギーが間違っていることを指摘するアプローチでは効果が薄く、家族や友人との絆を思い出させるほうが効果的です。
また、心理的な距離が遠いほど、平気で悪いことができます。
相手の目を見たまま攻撃するのは難しいですが、
爆撃のスイッチを遠くから押すのはより簡単です。
武器の進化は、いかに遠くから心理的抵抗なく攻撃できるかを考えて起こりました。
そのような権力者は後天的にソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)になり、
他者を軽視する、恥の感情をなくすなどの特徴があります。
本質的な善の性質を保ち、より明るい社会を築くためには、
信頼と交流が必要です。
信頼と交流をベースに社会を構築する
今までの社会は性悪説をベースに社会制度が作られてきました。
性善説をベースに再構築したら、どのような社会になるでしょうか?
つまり、相手を信頼し、心理的な距離を縮めるために交流が活発な社会です。
『Humankind 希望の歴史』には性善説をベースにうまく機能した事例が紹介されています。
<性善説をベースにした事例>
・マネージャーが一切管理しない在宅ケア組織ビュートゾルフ
・クラス分けや教室、成績がない自由な学校アゴラ
・市民がだれでも参加して予算の使い道を決める自治体トレス(ヴェネズエラ)
・看守と囚人の区別がつかないリゾートみたいな刑務所 など
ただ他者に優しくしてガマンすればよいということではなく、
性善説に立って組織運営することは実際的なメリットももたらします。
たとえば、ノルウェーのリゾートみたいな刑務所とアメリカの刑務所を比べると、
収容にかかる費用はノルウェーのほうが1人あたり2倍かかりますが、
2年以内の再犯率はアメリカが60%、ノルウェーが20%。
性善説を支持する=楽観主義になることではなく、
性善説を支持する=現実主義であると言えます。
『Humankind 希望の歴史』の感想:心に残ったポイント
『Humankind 希望の歴史』で個人的に心に残ったポイントを紹介します。
数千年の間、わたしたちは語られる物語に対して、懐疑的になることができた。誰か饒舌な人が立ち上がって、自分は紙によって選ばれたと宣言しても、笑い飛ばすことができた。その人が集団にとって邪魔になると、背後から矢を射た。ホモ・パピーは友好的ではあったが、世間知らずではなかったのだ。
しかし、軍隊と司令官が現れると、このすべてが変わった。 下 P.54~55
狩猟採集をしていた時代では、リーダーは一時的な地位であり、
他のメンバーの意志でかんたんに交代させることができました。
みなの意見を無視してリーダーの地位にしがみつこうとすれば、
集団の総意として倒されることもあります。
しかし、文明化によって武器や軍隊といった権力・武力が加わると、
暴力の脅威から信じたくない物語も信じなければ自分の身が危うくなりました。
権力を固定化することは自由を失うこと。
マキャヴェッリはこう言った。「信じなくなった人々を、力ずくで信じさせるために、もろもろの条件をアレンジするのは有益だ」 下 p.55
問うべきは、子どもは自由をうまく扱うことができるか、ではない。
わたしたちは子どもに自由を与える勇気を持っているか、である。 下 p.121
”第14章 ホモ・ルーデンス”は教育についての章で、
子育てしている人には響く内容だと思います。
ホモ・ルーデンスは”遊ぶ人”という意味です。
危険なものを取り除きすぎていないか、
遊び方が決まり切ったおもちゃばかり与えていないか、
学校の成績ばかり気にしていないか。
子どもを”守る必要がある弱い存在”とみなせば、子どもはその通りになります。
まとめ:『Humankind 希望の歴史』で世界を見る目が変わる
・人の本質は善である
・性悪説の根拠となる心理学の実験は信ぴょう性が低い
・性悪説で世界を見るとそれが現実になってしまう(ノセボ効果)
・ニュースが現実世界を映しているとは限らない
・共感や仲間意識はときに善人を悪人に変える
・心理的な距離があると人は残忍なことができる
・信頼と交流をベースに社会を再構築しよう
・性善説は楽観主義ではなく現実主義である
希望の歴史というタイトル通り、
読んだ後はいつもの景色がより明るく感じる気がしました。
★今回紹介した本★
⇓『Humankind 希望の歴史』が好きな人はこちらもおすすめ
参考記事:【要約】ファクトフルネスの意味とは?批判も多いが読むべきベストセラー
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