わたしは自己責任論や自分原因説をある程度信じていて、
自分の手で自分の人生を良くしよう!と考えています。
ただ、世の中の自己責任論が強すぎる、極端すぎると感じませんか?
コロナに感染したのは自己責任、失業したのは自己責任・・・
なんでもかんでも個人の責任にして社会は良くなるのかな。
そんな疑問を持って読んだのが、
マイケル・サンデルさんの『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』です。
著者のマイケル・サンデルさんは、
ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』やNHKのハーバード白熱教室で有名。
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』では、
能力主義のデメリットと道徳的な問題点が論じられています。
この記事では『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』の要約を紹介します。
目次
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』の要約ポイント3つ!
『実力も運のうちー能力主義は正義か?』のポイントを3つ紹介します。
1:機会の平等が与えられた完全な能力主義でも不平等は解決しない
2:能力主義は社会的地位が高い者に傲慢を、低い者に屈辱を与える
3:労働の尊厳を回復して誰でも共通善への貢献を承認される社会へ
本書の主張は、行き過ぎた能力主義は社会的なデメリットを引き起こすというもの。
テーマである能力主義とは、
社会的地位が個人の努力と才能の反映である考え方・思想です。
能力主義(meritocracy):
社会的地位が個人の努力と才能の反映であるという考え方・思想
成功は自分に能力があって努力した結果であり、
失敗は自分の能力や努力が足りなかったから。
ポイント1:能力主義=平等ではない
まず、1つ目のポイントは、
能力主義は平等ではない、能力による不平等を正当化しているだけということです。
”能力主義は平等ではない”と聞いて、
機会の平等が保たれてないからと思う人もいるかもしれません。
<機会の平等が保たれていない例>
・学習塾に通う費用や大学の学費が払えないから大学に進学する機会を逃す
・私立の幼稚園や小学校では、親の経済状況も合否を左右する
スタート地点で不平等なのですから、結果も不平等であるのは納得できます。
『機会の平等が保たれない場合、能力主義は不平等』という主張は正しいですよね。
しかし、サンデル教授の主張は、
機会の平等が保たれていたとしても能力主義は不平等だというものです。
機会の平等を維持するのはとても難しいですが、仮にできたとして、
その結果生まれる不平等は放置して良いのでしょうか。
自由な競争の結果、過酷な状況に置かれた人は自己責任だから助けなくていい。
それは道徳的、正義にかなっているとは思えません。
スタート地点が平等だからといって、ゴール地点の不平等を正当化して良いことにはならない。
不平等の序列を能力によって入れ替えただけ…といえます。
社会的流動性とは?
能力主義が行きつく先は正義や平等の社会ではなく、社会的流動性が高い社会です。
社会的流動性とは、立場を入れ替えるチャンスがあるかどうかを指します。
社会的流動性が低い:階級社会、身分制度が厳しい
社会的流動性が高い:能力によって社会的地位が上がるチャンスが誰にでもある
結果の不平等は正当化されるのが能力主義の世界といえます。
ポイント2:能力主義は成功者と失敗者を分断する
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』では、
トランプ大統領の当選やイギリスのEU離脱などのポピュリズムの台頭は、
行き過ぎた能力主義が招いたエリートと労働者の分断だと分析しています。
ポピュリズム(大衆主義):
一般大衆の権利や利益を守るべく、
エリートや知識人による既存体制に反発する政治的な姿勢・主義のこと。
能力主義は社会的地位が高い者に驕りや傲慢を与え、
低い者には屈辱や怒り、自己不信の感情をもたらします。
社会的地位が高い人:
自分の成功は自分の才能や努力のおかげ。失敗者は怠け者で能力がないと見下す。
見下していることに無自覚であり、恥の感覚が欠如している。
社会的地位が低い人:
自分の社会的地位が低いのは自分が至らないせい。
機会が平等であるほど、自分に対する否定・屈辱が強くなる。
そもそも、社会的地位が高い人の成功が、
本当にその人の能力や努力によるものなのでしょうか。
先天的に恵まれた知能、容姿、運動能力などを持って生まれ、
さらにその能力を評価してくれる時代や国に生まれたという幸運があります。
成功に運や偶然の要素があることを認めれば、謙虚さや幸運への感謝が生まれます。
自分の成功は幸運だっただけという態度が、
共通善(公共の福祉)や社会的な一体感を作り出すのです。
また、社会的地位が低い人にとっても、
今の社会的地位と自分の才能がひもづかないことは救いになります。
自分を責めずに済みますからね。
アメリカは努力を信じる傾向が強いそうです。
ポピュリズムの台頭は、
いわゆるエリートから見下されていることを感じ取った労働者による反乱といえます。
オバマ大統領への批判
オバマ大統領が好んで使った言い回し、「やればできる!」は
能力主義をよく表しています。
やればできる!
⇒できたなら自分のおかげ/できないのはやってないから
⇒努力や才能が足りない人が悪い
本書ではオバマ大統領の能力主義的な態度をたびたび批判しています。
能力主義的な発言が多いのは仕方ない気もします。
ポイント3:共通善に貢献できない痛みを解消する
能力主義は平等ではなく、社会的地位が高い者と低い者の分断を生み出します。
社会的地位が高い者は自分の能力や努力に驕り、
社会的地位が低い者は屈辱を感じて生きる社会です。
どうすればよいでしょうか?
本書の第7章”労働を承認する”から2つの案を紹介します。
1:賃金補助を出して労働の尊厳を回復する
2:労働への課税をやめ(減らし)、消費と投機への課税を増やす
どちらも労働に対する価値を上げることを目的にしています。
能力主義では報酬・成果=共通善への貢献度合いと考えてしまいがちです。
しかし、投資家や経営者が大きな報酬を得る世の中で、
報酬・成果=共通善への貢献度合いは必ずしも当てはまりません。
お金を稼ぐのが共通善ではないというわけではなく、
金銭的な報酬と社会貢献の度合いは必ずしも一致しないという意味です。
社会的な貢献度合いは大きいですよね。
共通善への貢献に対して経済的に報われない部分を賃金補助で補填しよう
というのが1つの案です。
また、何に課税するかは何を共通善への貢献とするかを意味します。
今は投資家にやさしい税制です。
労働の価値を回復したいなら労働への課税を減らす。
税制で何が尊いかを示すということですね。
自殺・アルコール・薬物などによる人生そのものを放棄した死を
絶望死と呼びます。
1990~2017年までに45~54歳白人男女の死亡率は、
大卒者は40%低下し、大学の学位を持たない人は25%も増加しました。
能力主義により尊厳を傷つけられた人に絶望死が起こっている
という見解もあります。
学歴の有無で死亡率が変わる世の中は平等とは言えません。
能力主義のメリット・デメリット
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』では能力主義の批判が中心ですが、
能力主義のメリットにも触れています。
能力主義すべてが悪いということではなく、
能力主義があたかも平等で正当な考えのように浸透し、
能力主義的選別から漏れた人の痛みが無視されているのが問題です。
能力主義のメリット
能力主義のメリットは、自由・自己決定権を感じられることです。
能力主義は自分の才能や努力次第でなんでもできる!と思えるので、
”わたしは自由だ”、”わたしは運命の奴隷ではない”という気持ちをもたらします。
モチベーションを上げたり、チャレンジ精神を培ったりするのに
能力主義は役立つでしょう。
自分の努力の余地を残しつつ、でも結果の恣意性も認めるのがバランスが良さそうです。
なんでも運任せだと、”なるようになる”という受け身の姿勢になりがち。
社会的な成功を目指す野心的な人には、能力主義がしっくりくるかもしれません。
自分の動機付けとして効果を発揮するでしょう。
能力主義のデメリット
能力主義のデメリットは要約の中でも紹介しましたが、
自分の驕りや傲慢につながることです。
自分の手にした結果が自分の才能や努力によるものである、と信じることは、
ともすると、結果が出ない人は才能や努力が足りない人という考えに繋がります。
自分の成果にまつわる様々な幸運を無視することで、
他者への配慮や想像力が失われます。
思うような結果が出ないときはセルフイメージも傷つきます。
”年収1000万円ある=自分は才能があって努力もした”と短絡的に結び付けていると、
年収が下がったら自分の才能や努力が否定された気になるかもしれません。
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』の注意点
『実力も運のうち』はぜひ読んでほしいですが、
『これからの「正義」の話をしよう』のノリで読むと難しくて驚くかもしれません。
ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』は、
大学の授業を再現しており、会話や具体的エピソードが満載でとても分かりやすいです。
特にオバマ大統領とトランプ大統領の政権時代の話が出てくるので、
アメリカの現代史を少し頭に入れた上で読むのがおすすめです。
わたしも詳しくなかったのですが、ざっくり下記のような認識があれば読み進められます。
民主党・・・大きな政府(社会福祉は政府の義務)、リベラル、高学歴、労働者
オバマ大統領、クリントン大統領、ケネディ大統領
共和党・・・小さな政府(できるだけ介入しない)、保守的、富裕層、キリスト教徒
トランプ大統領、ブッシュ大統領、ニクソン大統領
民主党の支持基盤は人種的マイノリティーや労働者が多いとされていました。
しかし、トランプ大統領誕生のときに共和党が労働者階級の支持を集めたことから、
最近では民主党=エリート/共和党=労働者、低所得者層という傾向もあります。
『実力も運のうち』はAudibleで読める!
『実力も運のうち』は耳で聴けるオーディオブックがあります。
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『実力も運のうち』の次に読むなら?おすすめ本3選
『実力も運のうち』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『それをお金で買いますか?』
マイケル・サンデル教授が市場化の道徳的限界を解説した本。
お金の対価として支払ってよい/悪いという問題を考えます。
知識を得るだけではなく、自分なりの答えを考えながら読みたい人にぴったり。
参考記事:『それをお金で買いますか』の要約と感想:市場化で失われるものは何?
②『1%の努力』
2チャンネルやニコニコ動画をつくったひろゆきさんの本。
努力よりもどこで努力するか、いかに小さい労力で成果を出すか考える重要性がわかります。
参考記事:『1%の努力』の要約まとめ:努力を最小限にできないか?を自分の頭で考える
③『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
行き過ぎた能力主義で分断が進むのは、相手に対して歪んだ見方をしているから。
社会的地位が高い人も低い人も、箱から出て相互に理解したら、
”実力がすべて”という傲慢も”自分がダメだから”という自己否定も解消されるはずです。
参考記事:自分の小さな箱から脱出する方法の要約まとめ!自己欺瞞を克服して人間関係を改善
まとめ:自己責任論を唱える前に思い出してほしい
・能力主義は平等ではなく能力によって不平等を再構成するにすぎない
・能力による結果の不平等は正当化される
・社会的地位が高い人は低い人を見下し、社会的地位が低い人は屈辱に耐える
・社会的地位が低い人の怒りが爆発したのがポピュリズムの台頭
・労働の価値を回復する賃金制度や税制が有効
・能力主義はモチベーションにつながる面もある
・成果と能力は切り離して謙虚さや幸運への感謝を忘れない
『実力も運のうちー能力主義は正義か?ー』は、
今の社会で評価されている人と本当に評価されるべき人の乖離に気づかされる本でした。
電気や水道などのインフラを整備してくれる人、
仕事の間に子どもを安心して預けられる保育士さん・・・
そして、生活保護や社会的支援を受ける必要がある人に対して、
「私がその立場だったかもしれないし、将来そうなるかもしれない」とみんなが思えば、
優しい社会・安心できる社会が作れそうですね。
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