『学びとは何か』は、よい学びとは何かを認知科学の観点から明らかにする本。
使える知識・生きた知識を身につけるには、知識は教わるものではなく自分で発見するものであり、どう使うかの知識も含まれるという考え方が重要です。
学習にはスキーマ(前提となる常識的な知識)が必要ですが、しかしときに既存のスキーマが学習の障害になることもあります。スキーマを足掛かりに学習しながら、スキーマを柔軟に修正できる、そんなバランスが必要になります。
★ 『学びとは何か』 の要約ポイント★
・学びにはスキーマが必要
・熟達するために必要な能力
・探究エピステモロジー(知識観)を持つ
この記事では 『学びとは何か』 の要約を紹介します。
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目次
要約①:学びにはスキーマが必要
スキーマとは、行間を補うために使う常識的な知識のことです。
たとえば、日本のある会場で全員黒い服を着てうつむきがちに多くの人が集まっている、そんな映像を見たら、「これはお葬式だろうな」と思います。
お葬式をやっているというナレーションや案内がなくてもそう思うのは、日本の文化のスキーマを持っているからです。日本の文化のスキーマを持っていない人が見たら、何をしているのか理解に時間がかかるでしょう。
また、物語のスキーマもあり、「映像が切り替わったらストーリー展開的に回想シーンだな」「オープニングは今の時間軸の話で、本編は5年前から始まった。ということは、どこかでオープニングのシーンにつながるんだろうな」などと説明がなくても理解できます。
スキーマは今までの経験からつくられた物事の見方の前提知識であり、新しいものを理解するときに役立ちます。
人は、何か新しいことを学ぼうとするときには必ず、すでに持っている知識を使う。知識が使えない状況では理解が難しく、したがって記憶もできない。つまり、学習ができない、という事態に陥ってしまう。言い換えれば、すでに持っている知識が新しいことの学習に大きな役割を果たしているのである。
スキーマは見るべきこと、注意を向けるべきことを教えてくれます。しかし、そのスキーマが通用しないことに関してはバイアス(先入観)として働いてしまうこともあります。
たとえば、日本語を母国語として学習した場合、日本語のスキーマを持ちます。日本語のスキーマを元に英語を学習しようとすると、母国語のように自由に使えるような知識にはなりません。
なぜなら、日本語のスキーマでは注意を払わなくてよいこと(たとえばLとRの聞き分け等)が、英語のスキーマでは意味を分けるのに重要になるからです。
子どもは耳にする言語をただ「聞き流す」のではなく、つぶさに分析して、語彙に潜むパターンを発見し、言葉の学習についてのスキーマをつくる。スキーマによって学習は加速する。言い換えれば、語彙の学習で、最も大事なことは、一つひとつの単語の意味を覚えることに留まらず、新しい単語の意味をすばやく推測し、語彙を増やしていくための「学び方の学び」を学習することなのだ。
母国語のスキーマにないもの・合致しないものは気付きにくく、覚えにくいため、母国語のスキーマが外国語学習を妨げる要因になることもあります。
しかし、何のスキーマも持たずに新しい学習をするのは不可能です。大切なのは、誤ったスキーマをつくらないことではなく、スキーマを適宜修正できる柔軟性です。
要約②:熟達するために必要な能力
熟達には自動で体が動くようになる段階と一流のパフォーマンスができるようになる段階の2段階があります。
<熟達の2段階>
①よどみなく、自動的に体が動く(スキルの自動化)
⇓
②一流のパフォーマンスができるようになる
知能指数(IQ)はそこそこのレベルまで達成する速さを予測できますが、一流のパフォーマンスができるかの予測には役に立たないそうです。
熟達するには次のような能力が必要です。
本質をつかむ力:一瞬で状況を把握し、解くべき問題と何をすべきかがわかる
直感力:全体の終着点がわかる、次の選択肢がわかる
認識力:膨大な量のデータの記憶を持ち、必要なときに取り出せる
審美眼:微差がわかる
初心者と熟達者では脳の回路が異なります。初心者は汎用的な脳の回路を使っており、熟達者はその活動に特化した脳の回路を使っています。何度も体を動かして習得することで、その活動に特化した脳の回路ができるため、自動的に体が動いてパフォーマンスが上がります。
逆に言えば、スポーツ選手のフォーム改造など、自動化された回路を修正するのはとても大変です。
特化した脳の回路をつくるには、自分で体を動かす必要があります。古典バレエのダンサーを対象にした実験で、古典バレエのペアは相手の動きを十分に観察しているにもかかわらず、自分が習得している動きと観察だけでやったことのない動きでは脳の活動のしかたが異なっていました(古典バレエでは男女ペアの動きやポーズは大きく異なります)。
つまり、自分が実際に身体を動かして習得しなければ、何千回、何万回観察していても、熟達者と同じような脳の働き方はするようにならないということだ。人は他者を観察して、他者から多くを学ぶ。しかし、その時、他者の行為を分析し、解釈し、心の中でその動きをなぞり、それを実際に自分の身体を使って繰り返すことが、人を模倣して学ぶときには、なくてはならないことなのである。
要約③:探究エピステモロジー(知識観)を持つ
エピステモロジーとは、知識についての認識のことです。知識をどのように認識しているかによって学び方が変わります。
知識を1つ1つ切り分けられる事実として増やしていくのは死んだ知識が増えるだけです。知識をどう切り出すかを含めて知識として持っていると、生きた知識を身につけることができます。
著者は前者をドネルケバブ(肉片を集積してつくるトルコの料理)に例えています。
・ドネルケバブのエピステモロジー
知識をぺたぺた表面に貼る、知識=事実、知識システムと知識が連動しない
・探究エピステモロジー
知識の使い方・切り出し方も含めて知識である、知識システム全体が流動的
たとえば、”break=壊す”と単語を一対一で覚えていくのはドネルケバブのエピステモロジー的考え方です。
breakと似た単語の意味の違い(rip、tear、smash、crashなど)や”壊す”以外の使われ方、breakが使われるときと使われないときの違いなども理解して初めて生きた知識になります。
切り分けられていない知識の塊をどのように切り出していくかを自分で見つけなければならない。言語を使うために子どもは「外にある知識を教えてもらう」のではなく「自分で探す」。要素を見つけながら、要素どうしを関連づけ、システム自体も発見していく。自分で見つけるから、すぐに使うことができるのである。
コロンビア大学教授のディアナ・キューンによると、エピステモロジーには3つの発達段階があります。
<エピステモロジー3つの発達段階>
①絶対主義:知識は絶対的に正しい事実
②相対主義:どれも正しい、それぞれの解釈による
③評価主義:仮説を証拠に基づいて評価する
評価主義に至るためには、科学的思考・批判的思考が重要であり、argueする能力だと表現されています。
argueする能力:仮説を立て、証拠を積み上げて論理をつくる力
知識を絶対視せず、科学的思考・批判的思考で検証しながら、システム全体を成長させていくのが良い学び、ということです。
知識は常に変化をつづけている流動的なものだし、最終的な姿は誰にもわからない。最終的な姿がわからないのに、システムを構築するためには、要素を増やしつつ、それに伴ってシステムも変化させながら成長させていくしかない。「生きた知識のシステム」を構築し、さらに新しい知識を創造していくためには直感と批判的思考による熟慮との両方を両輪として働かせていく必要がある。
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『学びとは何か』 の次に読むなら?おすすめの本3選
『学びとは何か』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『超一流になるのは才能か努力か?』
生まれ持った才能ではなく、努力によって脳や身体が適応することによって才能になるという内容。
遺伝的な才能があったとしても努力を継続することが才能の開花に必要です。
参考記事:『超一流になるのは才能か努力か?』の要約まとめ:才能を身につけるための限界的練習とは?
②『天才はディーププラクティスと1万時間の法則でつくられる』
ディーププラクティス(深い練習)を繰り返して脳の回路を最適化することで、
常人には考えられないパフォーマンスを発揮します。
生まれつきの才能があるのではなく、才能をつくる努力を惜しまない人が天才になれる。
勇気をもらえる本、やる気が出てくる本です。
参考記事:『天才はディーププラクティスと1万時間の法則でつくられる』の要約まとめ
③『リミットレス 超加速学習』
能力開発や学び方を学ぶメタ学習の本です。
知能や能力は生まれつきのものではなく、自分が脳にどのような刺激を与えるかで変化させることができます。
参考記事:メタ学習におすすめの本『リミットレス 超加速学習』の要約:自分の限界を超える
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