『失敗の本質』は、大東亜戦争での日本軍の失敗の原因を分析することで、
日本的な組織の欠点を明確にする本です。
日本軍の失敗の本質をひと言でまとめると、変革に失敗したこと。
日本軍の失敗の原因と自己革新組織に変わるための教訓がまとめられています。
★『失敗の本質』の要約ポイント★
・多様性を確保して組織内に意図的に不均衡をつくる
・失敗から学び創造的破壊を起こす
・自律型組織を共通のビジョンで統合する
組織論を学ぶためなら、第2~3章だけでも十分です。
日本史や軍事的な話が苦手・・・という方には、
『超入門 失敗の本質』もあります。
この記事では、『失敗の本質』の要約と感想を紹介します。
目次
『失敗の本質』の目次・構成
『失敗の本質』の目次は次のとおりです。
序章 日本軍の失敗から何を学ぶか
一章 失敗の事例研究
二章 失敗の本質
三章 失敗の教訓
戦争を始めたのがそもそも失敗という意見もありますが、
この本では実際の戦闘での戦略や組織運営での失敗にフォーカスしています。
扱われている失敗事例は下記の6つです。
・ノモンハン事件
・ミッドウェー作戦
・ガダルカナル作戦
・インパール作戦
・レイテ海戦
・沖縄戦
淡々とした状況説明の一章もけっこう重たい気分で読みました。
『失敗の本質』の要約①:日本軍の失敗の原因
日本軍の失敗の原因をひと言でまとめると、変革に失敗したこと。
つまり、自己革新組織になれなかったことです。
自己革新組織:環境の変化に合わせて戦略や組織を動的に変革する組織
自己革新組織になれなかった主な理由は次の3つです。
・多様性がなく、新しいものを受け入れない
・ものの見方が固定化していて、学習棄却ができない
・組織的なビジョンがない
多様性がなく、新しいものを受け入れない
日本軍は日露戦争や真珠湾攻撃など、過去のやり方にこだわっており、
短期決戦・攻撃力重視の考えに固執していました。
諜報活動を疎かにし、有力な情報が入ってきても最初の作戦を突き通してしまいます。
また、機械化に消極的で個人の技術に過度な信頼を寄せていました。
たしかに日本兵個々の技術力は敵を上回っていたようですが、
個人の鍛錬にも限界があります。
さらに、組織の人材に多様性がなかったので、新しい意見が生まれにくい風土でした。
理数系が得意な秀才タイプが画一的な学校で訓練し、軍組織に入ります。
多様性がない組織は不確実な状況に弱く、
戦争のような刻一刻と状況が変わる場面では柔軟性に欠けます。
ものの見方が固定化していて、学習的棄却ができない
多様性がないことはものの見方が固定化することにもつながります。
どの失敗事例でも、一度立てた作戦を意地でも変更しない、破綻している計画でもやり通す頑なさを感じました。
特に失敗=恥という文化が、学習棄却を妨げています。
学習棄却(アンラーニング):一度身につけた知識やスキルを捨てて新しく学び直すこと
かんたんに言えば、失敗から学べなかったということです。
成功例から既存の考えを強化することは得意でしたが、
失敗例から既存の考え方に疑問を持つことができませんでした。
組織的なビジョンがない
日本軍として共通のビジョンを持っていないことで、
陸海空軍で統率の取れた行動ができていない問題が露呈しました。
『失敗の本質』では”グランド・デザインの欠如”が指摘されています。
たとえば、陸軍の仮想敵はソ連軍、海軍の仮想敵は米軍とバラバラでした。
それぞれの組織が自律的に考えるのは変化に対応するために必要なことですが、
その根底には基本的なビジョンの共有が必要です。
察してくれと言わんばかりのあいまいな指示を与えたり…
連携が取れていない事態が多々発生していました。
『失敗の本質』の要約②:自己革新組織に必要な条件
日本軍の失敗を教訓として、どうしたら自己革新組織に変われるのでしょうか。
自己革新組織に必要な条件を3つにまとめました。
★自己革新組織に必要な条件★
・多様性を確保して組織内に意図的に不均衡をつくる
・失敗から学び創造的破壊を起こす
・自律型組織を共通のビジョンで統合する
1つずつくわしく紹介します。
多様性を確保して組織内に意図的に不均衡をつくる
自己革新組織には既存の考え方に疑問を持つ・気づきを与える存在が必要です。
『失敗の本質』では、”不均衡をつくる”と表現されています。
異質な存在を意図的に含める、オープンに議論できる場をつくる、
気づきや発見を気軽に共有できる等の工夫をします。
多様性(ダイバーシティ)の重要性を解説した本はたくさんあります。
特に『多様性の科学』が面白かったです。
参考記事:『多様性の科学』の要約と感想:多様性がなぜ必要なのか?がわかる本
失敗から学び創造的破壊を起こす
従来のやり方でうまくいかなかったときに、
「今までうまくいっていたやり方がもう通用しないのでは?」と疑問を持つことが重要です。
そのためには失敗から学ぶ必要があります。
失敗した原因を振り返り、必要があれば柔軟にやり方を改善していきます。
日本人はすでにあるものの生産性や品質を上げるのは得意ですが、
まったく新しいイノベーションを起こすのは苦手な傾向があります。
新しいものの受容度が低いのも関係あるかもしれません。
環境の変化が激しい時代には、従来の延長線上の持続的イノベーションではなく、
まったく違う角度からの破壊的イノベーションが必要です。
持続的イノベーション:従来の商品を改良して性能を上げる
破壊的イノベーション:新たな価値を創造する
自律型組織を共通のビジョンで統合する
変化に柔軟に対応するためには、それぞれのチームが自律的に判断して行動します。
自律的な行動を促すには適切な権限移譲と自由が有効です。
『失敗の本質』では、自律的な組織=ルース・カップリング型の組織とされています。
ルース・カップリング型:
変化に主体的に適応する自由がある。メンバーや組織間のつながりがゆるやか。
(対義語はタイト・カップリング型)
それぞれ自律型のチームが同じ方向を見て創造的な活動をするには、
共通ビジョンが必要です。
戦争のゴールイメージが明確になっておらず、
それぞれの組織がバラバラに違った目標を追っていました。
共通のビジョンを持ち、それをリーダーの言動1つ1つで示すことで、
組織としてまとまりが生まれます。
『失敗の本質』のオーディオブック
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『失敗の本質』の次に読むなら?おすすめ本3選
『失敗の本質』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『多様性の科学』
多様性がある組織では新しい視点がもたらされ、
思いつかなかったアイディアや見過ごされていた落とし穴に気づきやすくなります。
多様性のある人をそろえるだけでは発揮されず、
心理的に安全であると感じる環境づくりも大切です。
参考記事:『多様性の科学』の要約と感想:多様性がなぜ必要なのか?がわかる本
②『恐れのない組織』
”心理的安全性”という言葉の生みの親、エドモンドソン教授の著書。
心理的安全性を知るには欠かせません。
事例が多く、心理的安全性がいかにチームの生産性・創造性を高めるかがわかります。
参考記事:『恐れのない組織』の要約:心理的安全性を高めたいリーダーにおすすめの本
③『両利きの組織をつくる』
既存事業と新規事業を共存させる組織カルチャーをつくるための本。
既存事業を守る保守的な文化とイノベーションを起こす挑戦的な文化、
組織を継続するにはどちらも必要です。
『失敗の本質』と同様、対話を通じて社会の変化に適応しながら自己変革する重要性がわかります。
参考記事:『両利きの組織をつくる』の要約まとめ:深化と探索を共存させるには組織文化が重要
まとめ:失敗の教訓を今に活かそう
・日本軍の失敗の本質は自己革新組織ではなかったから
・自己革新組織とは変化に柔軟に適応して自らを変えていく組織
・日本軍が自己革新組織になれなかった理由
-多様性がなく新しいものを受け入れにくい
-ものの見方が固定化していて学習棄却ができない
-組織的なビジョンがない
・自己革新組織に必要な条件
-多様性を確保する
-失敗から学んで創造的破壊を起こす
-自律型組織を共通ビジョンで統合する
実際に失敗によってたくさんの方が亡くなったと思うと、
ただのビジネス書より心にズシンと来ます。
この本の失敗の教訓を最も生かせるのは日本人ですね。
多様性のある自己変革を恐れないチームづくりに生かしていきたいです。
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