『<効果的な利他主義>宣言』は、慈善活動に合理性を持ち込む重要性がわかる本。
どうせ良いことをするなら、最大限効果が出る使い方をしたいですよね。
効果があるか/ないかではなく、最高の効果を引き出しているかを科学的に検証すれば、限られた時間や資金でも素晴らしいことができます。
効果的な利他主義を実践するために気を付けるポイントがわかります。
★ 『<効果的な利他主義>宣言』 の要約ポイント★
・効果的な利他主義とは、他者のために最善の行動を取ること
・効果的な利他主義に重要な5つの問い
慈善活動は善良な意図から行われているので、効果で優劣をつけるのは少し罪悪感がありますよね。
でも、最善の行動を選ぶ(それ以外は選ばない)ことが誠実であるという考えに、納得感がありました。
この記事では 『<効果的な利他主義>宣言』 の要約を紹介します。
目次
要約①:効果的な利他主義とは?
効果的な利他主義とは、他者のために最善の行動を取ることです。
できる限り影響を及ぼすことがポイントで、最善の行動を取ることは最善以外の行動は効果があっても取らないことを意味しています。
効果的でない利他主義と効果的な利他主義の例として、プレイポンプと寄生虫駆除のプログラムが紹介されていました。
プレイポンプ:
貧困国の子どもたちがメリーゴーランドのような遊具で遊ぶときれいな水が汲みあがる
⇒人気を得たが、メンテナンスのしにくさ・くみ上げ効率の悪さが発覚する
寄生虫駆除:
ケニアの就学率向上に駆虫プログラムが非常に効果的だった。
(100ドルごとに、生徒合計10年分の出席日数が増えた)
プレイポンプが失敗したのは、子どもが遊びながら水をくみ上げるという素晴らしい光景に流され、効果の検証を怠ったからです。
寄生虫駆除プログラムはランダム化比較試験を行い、効果を検証してから展開しました。
ランダム化比較試験
比較したい対象以外の背景を同じにした集団を比較する。
先入観を避け、客観的に効果を評価できる。
最初、ケニアの就業率向上のために教科書の配布や教員の増員が検討されていました。しかし、ランダム化比較試験によって、教科書の配布や教員の増員はほとんど効果がないとわかったのです。
その中で駆虫プログラムにたどり着きました。
先入観では教科書の配布や教員の増員で学力が上がりそうな気がしますし、実際に効果があるケースもあるでしょう。
しかし、駆虫プログラムのような劇的な効果を上げる方法に限られた資源を投下するのが、効果的な利他主義です。
何が真実なのかを素直で中立な視点から突き詰め、それがどういう真実であろうと真実だけを信じると誓うのが「科学」であるとするなら、何が世界にとって最善なのかを素直で中立的な視点から突き詰め、それがどういう行動であろうと最善の行動だけをとると誓うのが「効果的な利他主義」なのだ。
要約②:効果的な利他主義に重要な5つの問い
効果的な利他主義が掲げる重要な問いが5つあります。
・何人がどれくらいの利益を得るか?
・これはあなたにできるもっとも効果的な活動か?
・この分野は見過ごされているか?
・この行動を取らなければどうなるか?
・成功の確率は?成功した場合の見返りは?
3つピックアップして紹介します。
何人がどれくらいの利益を得るか?
慈善活動に使える時間やお金は限られています。
Aのプログラムに1000ドル投資することは、Bのプログラムにその1000ドルを投資しないと決めることと等しいです。
どの慈善活動に時間やお金を使うかを決めるには、活動に優先順位をつけることになります。
異なる支援対象や活動内容のプログラムの効果を比較検討するためには共通のものさしが必要です。
1つの指標として、QALY(質調整生存率)が挙げられています。
QALY(質調整生存率)は寿命を伸ばすことと生活の質を上げることを価値として比較します。
(例)
①60年間、生活の質が20%上がる⇒60×0.2=12QALY
②生活の質が70&の人の寿命を10年延ばす⇒10×0.7=7QALY
①と②の効果が見込めるプログラムがあった場合、①を選ぶほうが効果が高い
もちろん、QALYが唯一の正しい指標ではありません。
しかし、健康が幸福に直結すること、効果が測定しやすいことから、紹介されています。
(どのくらい健康になったか・寿命が延びたかは、どのくらい幸せになったかよりも測定しやすい)
QALYなどの指標を使って合理的に判断することは、個人的な思いを無視している気がするかもしれません。たとえば交通事故で身近な人が亡くなったことをきっかけに、交通事故の被害者に10万円を支援したいと思ったとします。
その場合、「その10万円を最貧国の感染症予防に支援したほうが最大限の効果があります」と言われても、やっぱり交通事故の被害者に支援したいと思うのは理解できるのではないでしょうか。
しかし、日本のような先進国の10万円は、同じ日本の交通事故被害者には10万円でも、最貧国にとっては100倍以上の価値があります。
そして、交通事故で身近な人が亡くなったのはあくまで偶然です。
偶然で支援先を決めてしまうことは、もっと効果的に支援できる人たちに対して不公平だ、と著者は述べています。
もちろん個人のお金の使いみちをとやかく言う権利はありませんが、もし効果的な利他主義を実践したいなら、個人的な体験の事象(たとえば事故や偶然の出会い)ではなく、人間の悲しみや辛さという抽象度の高い感情に支援する、と考えてみてはいかがでしょうか。
この分野は見過ごされているか?
どんな活動が価値があるかは、状況によって異なります。
ものの価値には収穫逓減の法則が働くので、限られたリソースは逓減されない分野に投資するべきです。
収穫逓減の法則:一定の量を超えると効果が減っていくこと
セーターを1枚も持っていないホームレスにセーターをプレゼントすることは効果がありますが、何枚もセーターを持っていてクローゼットがパンパンな人にセーターをプレゼントするのは逆にマイナスかもしれません。
月収10万円の人が月2万円の昇給をしたときの喜びと、月収100万円の人が月2万円の昇給をしたときの喜びは全然違うでしょう。
つまり、あまり支援が集まっていない分野に支援することでリソースを最大限活用できます。
収穫逓減の法則を考慮すると、災害支援には寄付すべきではありません。
災害支援は報道の規模やセンセーショナルさが大きいほど支援が集まります。
人は新しいものに注意を払うので災害支援は支援が集まりやすいですが、
常に起きている貧困や迫害には注意を払わなくなります。
この行動を取らなければどうなるか?
支援の効果は、支援をしなかった場合とした場合の差で測られます。
支援してもしなくても同じなら、支援する意味はありません。
人を助けたいという思いで医者を志すイギリスのグレッグ・ルイスは、自分が医者になることの効果を明確にしようと考えました。
たしかに医者は人の命を救いますが、先進国にはたくさんの医者がいます。
そしてグレッグが医者にならなくても、医者になりたい人もたくさんいます。
つまり、グレッグが医者になることの効果は医者が1人増えるかどうかではなく、
グレッグが医者になるか/別の人が医者になるかの差です。
貧困国で医者をすればもっとたくさんの命を助けられますが、それもグレッグがやらなくても別の誰かが医者になるでしょう。
グレッグが出した結論は、イギリスで医者になり、そして寄付するために稼ぐことでした。
彼が医師にならなくても別の誰かが彼の代わりに医師になるだろうが、その医師はほとんど寄付をしないだろう(平均は約2パーセント)。
利他主義を実践するには、必ずしもNPOなど支援団体に参加したり発展途上国で暮らしたりする必要はありません。
自分がやったときとやらなかったときの差が大きいところに投資すると大きな効果が得られます。
『<効果的な利他主義>宣言』 の次に読むなら?おすすめの本3選
『<効果的な利他主義>宣言』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『ビジネスの未来ーエコノミーにヒューマニズムを取り戻す』
経済成長ありきの時代から、人間らしく生きる価値を創造する時代への変化がわかります。
資本主義の次の未来に興味がある人におすすめ。
参考記事:【要約まとめ】ビジネスの未来ーエコノミーにヒューマニズムを取り戻す
②『9割の社会問題はビジネスで解決できる』
経済合理性限界曲線の外側にある問題をビジネスで解決するための、
ソーシャルビジネスのつくり方を解説した本です。
ソーシャルビジネスの起業家による支援の仕組みを作っています。
参考記事:『9割の社会問題はビジネスで解決できる』の要約まとめ
③『0ベース思考』
ゼロベースで前提を疑うことで、違った考え方・アイディアが生まれます。
思い込みを捨てれば、直感とは違った解決策があるかもしれません。
当たり前や常識を疑う楽しさ・面白さがわかる本です。
参考記事:『0ベース思考』の要約:社会常識や一般的な基準を超えて自由に考える
まとめ:慈善活動はもっと良くできる
・効果的な利他主義とは、他者のために最善の行動を取ること
・ランダム化比較試験で効果を検証する
・劇的な効果を上げる方法に限られた資源を投下する
・効果的な利他主義が掲げる重要な問い
ー何人がどれくらいの利益を得るか?
ーこれはあなたにできるもっとも効果的な活動か?
ーこの分野は見過ごされているか?
ーこの行動を取らなければどうなるか?
ー成功の確率は?成功した場合の見返りは?
最大限の効果が出せるかどうか、科学のように検証すればもっと良いことが出せる勇気がもらえました。
特に先進国に生きている人たちは、たとえ平均的な収入でも最大限の効果を出せるパワーを持っています。
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