『アンソロ・ビジョン』は、人類学的視点をビジネスに生かすための本。
人類学のように虫の目で集めた情報と、ビッグデータのような鳥の目で見た情報を合わせることで、新しい洞察が得られます。
アンソロ・ビジョン=人類学(anthropology)の視野(vision)
著者のジリアン・テッドさんは、人類学で博士号を取った後、ファイナンシャル・タイムズに入社した女性のジャーナリストです。
たくさんの事例とともに、人類学的に考えることの意味がわかります。
★ 『アンソロ・ビジョン』 の要約ポイント★
・未知なるものを身近なものへ
・身近なものを未知なるものへ
・社会的沈黙に耳を澄ます
この記事では 『アンソロ・ビジョン』 の要約を紹介します。
目次
要約①:未知なるものを身近なものへ
『アンソロ・ビジョン』の中で、人類学は次のように表現されています。
身の回りの世界を詳しく見て、ありふれた現実の中に潜んでいる事柄に気づき、他者に共感を抱き、問題に対する新たな洞察を得るための知的フレームワーク(枠組み)
異なる他者を理解するためには、単なるデータからではわからない、そこに見出している意味の違いを理解することが重要です。
たとえば、コカ・コーラが中国でお茶を売ろうとしたとき、思うように売れませんでした。
それは”お茶”というものの意味がアメリカと中国で違うことを認識していなかったからです。
アメリカでのお茶:バーベキューに合う、甘い飲み物
中国でのお茶 :本来の自分を取り戻す、刺激物がない洗練された飲み物
また、「have a break」というキャッチフレーズが日本で浸透せず、キットカットが当初、日本で売れなかったのは、休憩に対する考え方の違いを考慮していなかったからと言えます。
イギリスの休憩:チョコをつまんでひと息入れる
日本の休憩 :ゆっくり、好きなことをして過ごす
しかし、売れる時期に偏りがあるというデータから、キットカットと「きっと勝つ」をかけて日本人が受験のお守りとしての意味を見出していることに気づきました。
合格を連想させる桜のパッケージにしたり、メッセージが書き込めるようにしたり等、意味に沿ったマーケティングが成功しました。
12月~2月にかけて売れている、というのはデータからわかることですが、そこにどんな意味があるのかまではデータだけではわかりません。
異なる文化的コンテクストの下で生きる人々は、異なる「意味の網の目」をつくるということだ。
2014年に西アフリカでエボラの感染が拡大した際、西アフリカの文化を無視したために封じ込め作戦がとん挫していました。
感染対策チームを襲撃する、病院から逃げようとする、エボラで亡くなった遺体に触れるなど、西洋人からすると考えられないことが起こっていたそうです。
そこで、人類学者が虫の目で集めた情報から次のような提言をし、感染拡大の防止と西アフリカの文化の共生ができるようになりました。
・隔離施設の中が見えるつくりにする
・長老に安全対策のメッセージを伝えてもらう
・自宅看護や伝統的な葬儀を禁止するのではなく、安全なやり方を提案 など
ある文化の人から見れば奇妙で意味がない行為に見えても、別の文化の人から見ればとても大切な儀式の1つかもしれません。
実際、西アフリカで遺体に触れて敬意を持って弔わなければ、魂が浮かばれずに周りにも不幸が起こると信じられていました。
いかなる文化の出身者も、自らの行動も他者から見ればおかしいという自覚なしに他の文化を「奇異」だと蔑む権利はない、と。
要約②:身近なものを未知なるものへ
未知なるものを理解するだけでなく、身近なものにも人類学的な視点で見つめると新しい発見があるかもしれません。
なぜなら、自分が浸っている環境を自分で見ることはとても難しいからです。
サブプライムローン問題が起こったとき、ファイナンシャル・タイムズ紙の立場から見ていた著者はその危うさを認識していました。しかし、それを金融業界の人にぶつけても、相手にされなかったそうです。
金融の専門家たちは、「理解しているのは自分だけ」という過信、リスク分散や流動性など理論への妄信があったのでしょう。
自分のいる世界をアウトサイダー(部外者)として眺める視点が欠けていたといえます。
重要なのは、自分の立ち位置がどこであろうと、そこが馴染みある場所か奇妙な場所かにかかわらず、常に自らにシンプルな問いを投げかけてみることだ。(中略)「自分が完全な部外者として、あるいは火星人か幼い子供としてこの文化に放り込まれたら、その目にはどんな光景が映るだろうか」と。
サブプライムローンのリスクに気づいた投資家のなかには、旅先でどう考えても返しきれない住宅ローンを抱えたポールダンサーに会って、リスクに気づいた人もいたそうです。
データだけ見ているとわからない、実際に多額のローンを借りている人々の実態に触れることで、自分たちの世界のおかしさに気づけたと言えます。
要約③:社会的沈黙に耳を澄ます
アウトサイダーの視点で見ると、目の前にあるのに見えないものも見えてきます。しかし、完全にアウトサイダーの視点になりきることはできません。
傲慢になって社会的沈黙(語られないもの)をスルーしないために、汚れたレンズの考え方を意識しましょう。
①自分のレンズは汚れていると自覚すること
②自らのバイアスを意識すること
③バイアスに惑わされないように世界を別の視点から眺めてみようとすること
④①~③をしても、レンズが完全にきれいになることはないと肝に銘じること
起きていることを自分にとって当たり前のことと捉えるのか、自分とは違う奇妙なものと捉えるのか、それともそこに能動的に意味を見出すのか(センスメイキング)。
同じ体験をしても、どういう視点で物事を見ているかによって得られる気づきは違います。
AIが日々の生活に浸透していく今、私たちは人間らしさを大切にしなければならない。政治や社会の二極化が進む時代には、共感が必要だ。パンデミックにオンライン化を強いられる時期が収束したら、私たち自身が物理的な「肉体を持つ」存在であることを再確認する必要がある。
AIだけではとらえきれない人間らしさを人類学視点で掘り起こすことで、もっと他者とつながれるのではないか、と思える本でした。
『アンソロ・ビジョン』 の次に読むなら?おすすめの本3選
『アンソロ・ビジョン』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『多様性の科学』
多様性がある環境をポジティブに活用すれば、新しい視点がもたらされて今まで思いつかなかったアイディアが生まれやすくなります。
多様性のある人をそろえるだけでは発揮されず、心理的に安全であると感じる環境づくりも大切です。
参考記事:『多様性の科学』の要約と感想:多様性がなぜ必要なのか?がわかる本
②『差別はたいてい悪意のない人がする』
”悪意なき差別主義者”がどうして生まれるのか、そして差別的な感情とどう向き合えばいいかを考えられる本です。
自分の前提が絶対であると信じたうえで公平を語ると、誰かにとっては不公平な世界になるかもしれません。
人はかんたんに差別してしまうからこそ、差別が潜んでいないかに意識を向けるのが重要です。
参考記事:『差別はたいてい悪意のない人がする』の要約まとめ:誰でも差別主義者になりうる
③『insight』
自己認識を高めることで、無意識の決めつけや他人への評価に気づくことができます。
自分で自分を知る内的自己認識と他人から見た自分を知る外的自己認識を高めるのがポイントです。
参考記事:本『insight』の要約まとめ:自分を正しく知る自己認識(セルフ・アウェアネス)とは?
まとめ:アンソロ・ビジョンでデータに意味を見出す
・アンソロ・ビジョン=人類学(anthropology)の視野(vision)
・人類学的な虫の目の情報が、異なる「意味の網の目」の理解を助ける
・自分の文化は他者から見たら奇妙に見えるかもしれない、と自覚する
・当たり前だと思っている環境を客観視するのは難しい
・火星人や幼い子どもになったつもりで眺めてみる(アウトサイダー視点)
・どんなに意識してもバイアスからは逃れられない
著者が実際に経験した事例(タジキスタンでのフィールドワークやサブプライムローン問題、トランプ大統領選など)をもとに、人類学的視点の重要性がわかります。
ビジネス書、ハウツー本というよりは、人類学という学問の視点を学べる本としておもしろかったです。
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