『無(最高の状態)』は、苦しみの原因と対処法がわかる本です。
苦しみの原因は自己であり、自己を捨てることで苦しみから解放されます。
病気や天災など避けられない苦しみもありますが、その苦しみを自己が増幅させてこじらせてしまうのです。
脳がつくる物語を観察して巻き込まれにくくすることで、苦しみから自分を守ることができます。
★『無(最高の状態)』の要約ポイント★
・脳が物語をつくり出し、自己という虚構をつくる
・自分の内側に安心できる結界を張る
・自分の内面を観察して見つめる
物語に耳を傾け過ぎず、距離を持ってつきあうと心穏やかに過ごせそうです。
この記事では『無(最高の状態)』の要約を紹介します。
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目次
要約①:脳が自己という虚構をつくる
心配性で慎重な方が生存に有利なため、人間はもともとネガティブです。
ネガティブ感情とは、何か重要なものが欠けた・ニーズが満たされないという状態であり、
人間は過去や未来をイメージしてネガティブ感情をくり返し呼び起こして苦しみをこじらせます。
一の矢:病気・事故・災害など避けられない苦しみ
二の矢:一の矢に反応した脳が生み出す不安・怒り・悲しみ等
動物にも一の矢の苦しみはありますが、存在しない過去や未来を想像して苦しむ二の矢が刺さるのは人間だけです。自己が過去や未来という時間軸に広がることで、苦しみも悪化します。
私たちの苦しみが長引く場所には必ず自己が関わり、目の前に存在しない過去と未来の脳内イメージが、あなたを”二の矢”で貫いています。
人間が生きていくなかで、次にどんな行動をすべきかを考えたり、過去を記憶したり、自分の思考や感情を整理したりするために自己という機能が必要だったに過ぎません。
認知科学や脳科学では、自己=特定の機能の集合体、生存用のツールボックスという考え方があります。
それにも関わらず、なぜか自己=絶対的な特別な意識のように思えてしまうのは、脳が物語をつくることで自己という存在が強化されてしまうからです。
実際には自己という唯一の精神機能は存在しないにもかかわらず、脳が間断なく作り出す物語のおかげで、あたかも自己が絶対の存在であるかのような錯覚が生まれるのです。
物語とは”特定の物事の因果関係を説明したもの”です。
過去の記憶を元に因果関係を結び付けて解釈し、その解釈の物語が役に立つこともあれば歪んだ物語がバイアスとなって害となる場合もあります。
脳がつくり出す物語は現実に大きな影響を与えます。
たとえば、”友人を食事に誘ったら断られた”という出来事があったとします。
友人は忙しいから断ったという物語を採用すれば「また今度誘おう」と思うだけで済みますが、「嫌われているから行きたくなかったんだ」という物語を採用すれば二の矢に苦しむことになるでしょう。
要するに、同じようなトラブルにも苦しむ人と苦しまない人がいるのは、あなたのメンタルが強いか弱いかの問題ではありません。脳内に作られた独自の”ストーリーライン”が適応か否かの問題なのです。
苦しみに対処するには、自己を捨てる・脳の物語に振り回されないようにするのが重要です。
要約②:自分の内側に安心できる結界を張る
自己を捨てるのは大きな不安・恐怖を伴うため、自分の内側に安心な領域(結界)が必要です。
結界を張るにはセットとセッティングを良好な状態に保ちます。
セット:個人の性格、感情、期待、意図などの状態
セッティング:物理的、社会的、文化的な環境の状態
この薬は効くだろうという期待を持って飲めば本当に効果が上がります。
同じ成分量でも1錠より2錠、私服より白衣の療法士のほうが効果が上がるなど、儀式的な要素がセットとセッティングを整えてくれるという研究結果があります。
統合失調症の患者が聞こえる幻聴を比較したところ、先進国ではネガティブな幻聴が多かったのに対して、アフリカやインドの田舎町ではポジティブな内容が混ざっていたそうです。
先進国では幻聴=異常なものという捉え方なのに対し、アフリカやインドの田舎町では幻聴=神の声など神聖なものという捉え方が多く、ポジティブで穏やかな声に変換されたと考えられています。
具体的にセットとセッティングを整える方法は次のとおりです。
・食事/運動/睡眠の改善
・感情の粒度を上げる
・私にとって心から安心できる場所をイメージする
食事/運動/睡眠の改善はくわしく触れられていませんが、何事も基本なんですね。
感情の粒度を上げるとは、あいまいな感情を細かく観察して詳しい言葉で表現することです。
なんでも”ムカつく”で済ませるのではなく、”憤る”・”癪に障る”・”わだかまりがある”・”反感を覚える”など、そのときの感情にピッタリの表現を探します。
語彙を知る、比喩で例える、数値で表す(怒り50%・悲しみ30%・焦り20%等)が有効です。
私にとって心から安心できる場所をイメージする方法は、セーフプレースワークが紹介されていました。
セーフプレースワーク
・心から安心できる場所をイメージする。
・浮かんできた場所を観察し、細かい部分を意識して想像する。
・音や肌感覚、足裏の感覚などに焦点を当てる。
脳内イメージを現実に投影して生きていることを逆手にとって、脳内に安心できる場所をつくることで現実にその場にいるようにリアルに感じさせることができます。
要約③:自分の内面を観察して見つめる
脳がつくる物語に振り回されていると、苦しみをくり返し思い出して二の矢が刺さりっぱなしです。
自分の内面を観察して見つめることで物語の発生に対処します。
簡単に言えば、苦しみをこじらせる人の脳は、世界の小さな変化をすべて「自分ごと」として捉えがちなのです。
ところが、観察のトレーニングでは、身体の不調や内面の不安をいったん放置し、そのまま見つめ続ける態度を求められます。外界の変化をいたずらに「自分ごと」にせず、ただ脳内に起きた現象のひとつとして観察を続けるわけです。
具体的には、お皿洗いや掃除など日常の動作に意識を向けて観察する、自然やアートの中に感動ポイントを探す等が挙げられます。
原始仏教の手法、慈経行(じきんひん)は歩きながらすれ違う人の幸せを願うというもの。
他者との関係の中でしかわたしが成り立たないという縁起性を感じることができ、心が落ち着く行為です。
1日10分、すれ違う人に「この人が健康に暮らせますように」、「この人が楽しい人生を送れますように」と心の中で祈ります。
自分を構成する物語を観察することで、意識せずに自分が縛られている悪法(歪んだ物語)を把握することができます。
ネガティブな感情が生まれたとき、感情や状況、きっかけ、生理的な変化を観察して書き留めておきます。悪法を推定して、自分の過去から起源を探り、なぜ自分がその物語を採用しているかを考えましょう。
より現実的な思考、代わりにできた行動に意識を広げることで、少しずつ悪法に捉われていた自分に気づけるようになるはずです。
たとえば上司に怒られてムッとした場合、犠牲(利己的であるのは良くない)や服従(発言しないほうが安心)という悪法が隠れているかもしれません。
そう考えてしまう過去の体験や悪法を採用するメリットを振り返り、より現実的な思考と代理行動を考えてみます。
悪法の起源やメリット:
子どものころ黙っているほうが怒られなかった。
現実的な思考と代理行動:
黙って我慢するほど大きいミスではなかった。人格否定のような発言があったら抗議をしてもいい。
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『無(最高の状態)』の次に読むなら?おすすめ本3冊を紹介
『無(最高の状態)』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『反応しない練習』
『反応しない練習』は、不安、嫉妬、悩みなどネガティブな感情の仏教的対処法を教えてくれます。
自分の心をどう見つめればよいかがわかり、すっきりする本です。
参考記事:『反応しない練習』の要約まとめ:悩みの原因は心の反応である【ブッダの合理的解決策】
②『セルフトークマネジメント入門』
セルフトークとは感情や行動を支配するひとり言のこと。
怒りに支配されているときは、ネガティブなセルフトークが頭にかけめぐっていませんか?
ネガティブなセルフトークを断ち切って、ポジティブに置き換える方法がわかります。
参考記事:セルフトークとは何か&活用方法がわかる!『セルフトークマネジメント入門』の要約まとめ
③『Compassion(コンパッション)』
コンパッション(慈悲)は他者のために感じること、自分自身と相手と共にいる力。
他者と協力して生きていくために、人間に本能的に備わっている力です。
しかし、現代はスピード重視、デジタル機器で注意力が奪われる等によって、
意識しないとコンパッションは弱まってしまいます。
参考記事:『Compassion(コンパッション)』の要約:自分自身や相手と共にいる力
まとめ:もう苦しみをこじらせない
・人間は存在しない過去や未来を想像して苦しむ
・自己は生存に必要な特定の機能の集合体に過ぎない
・脳が物語をつくることで自己の意識が強化される
・自己を手放すには内面に安心できる場所をつくる
・感情の粒度を上げるとメンタルが安定する
・自分を縛っている悪法に気づいて望ましい行動に変えていく
『無(最高の状態)』ではたくさんの研究結果やエピソードが紹介されていて、読み物としてもとても面白かったです。
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