『問題解決のジレンマ』は、無知・未知の領域を意識して問題発見の思考回路を理解するための本。
著者の細谷功さんは思考法の本をたくさん出されています。
問題解決は既知の未知(知らないと知っている)ものを既知の既知(すでに知っている)にすることであり、それに対して問題発見は未知の未知から問いを探すことです。
問題発見と問題解決に必要な思考回路が異なること、どうすれば問題発見型と問題解決型の思考の人が共存できるのかがわかります。
★ 『問題解決のジレンマ』 の要約ポイント★
・未知の未知を意識する重要性
・問題解決できる人は問題発見できない
・アリ思考とキリギリス思考
未知の領域の探求を楽しむ人が増えれば、世界が変わるような気がしました。
この記事では 『問題解決のジレンマ』 の要約を紹介します。
目次
要約①:未知の未知を意識する重要性
未知か既知かで分類すると、3つの領域に分けられます。
既知の既知:すでに知っている(答えがわかっている)
既知の未知:知らないことを知っている(問いがある)
未知の未知:知らないことすら知らない(問いを探す)
既知の未知の問いを解いて既知の既知にするのが問題解決であり、未知の未知から問いを見つけて設定するのが問題発見です。
問題発見が優れていて問題解決が劣っているわけではありません。どちらも必要なのに、問題解決のほうがわかりやすく多数派なのでバランスが悪くなっています。
「知識がすべての原点」ともいえる(狭義の)問題解決では、「既知の未知」を「既知」に変えるために決められた変数を最適化する、あるいは「枠が決まった塗り絵の色を塗る」ことが重要で、そのためにはある程度すでに体系化された知識を活用する。
これに対して、問題解決のフェーズでは、はるかに曖昧性や不確実性が上がり、「変数そのものを探し出す」ことが求められるため、過去の知識を用いつつ、そこから新たな創造性を発揮する必要がある。
ここで、”未知の未知”と”既知の既知”の思考の違いを体感できる問いを紹介します。
Q1.コンビニで売っているものを列挙してください(1分間)
次の質問です。
Q2.コンビニで売っていないものを列挙してください(1分間)
思考のプロセスに違いはありましたか?
Q1は既知の領域を問われている質問です。きっとコンビニの棚を想像して答えたのではないでしょうか。
既知の領域は知っていることを出すだけなので簡単で、人によって答えにあまり違いはありません。
Q2はどのように考えたでしょうか。
他のタイプの店(家電量販店など)の棚を思い浮かべて答えた場合、それはやはり既知の領域で答えていることになります。
他のタイプの店では売っているけどコンビニでは売っていないことを知っているものから、答えを出したということです。
しかし、Q2の答えには無限の広がりがあります。
・無形サービス(英会話、クリーニング、マッサージなど)
・生きもの(ライオン、ミミズ、鳥など)
・目には見えないもの(空気、電気など)
・そもそも売っていないもの(愛、横断歩道など)
・存在しないもの(タイムマシンなど)
「いやいや、そもそも答えの制約条件を伝えておいてくれないと…」と思いませんでしたか?
(わたしは思いました)
まず問題を定義しないと問題が解けないので、あらかじめ線を引くことは問題解決に必須の思考です。
しかし、人間は知らないことのほうがはるかに大きく、線を引くことで問題発見から遠ざかることになります。
人間は知らないことのほうがはるかに大きい、という事実を認めて、無知・未知を意識的に活用するのがイグノランスマネジメントです。
イグノランスマネジメント:
無知・未知を意識的に活用し、創造的活動のトリガーにする
特に時代の変化が速いときには、既知の知識が通用しなくなるスピードも速くなります。
無知の重要性を意識することで、自分の知識はまだ通用するのか?見えていない領域があるのではないか?と自分に問いかけることができます。
知識は遅かれ早かれ陳腐化する。ところが人間は環境変化によって知識が陳腐化していることに気づかずに、いつまでもそれに固執してしまうものである。これを戒めるのが、「無知の重要性」ということになる。
要約②:問題解決できる人は問題発見できない
問題発見と問題解決は思考回路が正反対なので、問題解決に慣れた人は問題発見が苦手です。
問題発見と問題解決には3つのタイプのジレンマがあります。
・知(識)のジレンマ
・閉じた系のジレンマ
・問題解決のジレンマ
1つずつ紹介します。
知(識)のジレンマ
一度身につけた知識が新しい知識の習得を邪魔することがあります。
そんなときは解釈のリセット、学び壊し(unlearn)が必要です。
学び壊し、学びほぐし(unlearn):過去の知識や価値観を手放すこと
イノベーションを起こす等のテーマでよくキーワードに挙がります。
今まではパターン認識で応用すればよかったのに、固定化したパターン自体を壊す必要に迫られるかもしれません。
過去の成功体験や繰り返してきた思考パターンが、問題発見の思考を妨げる可能性があります。
閉じた系のジレンマ
問題解決のためには線を引いて問題を定義する必要があります。
狭い範囲の問題にすばやく対応して、短期間で成果を出すには効果的でしたが、
変化に対応できないという弱点があります。
問題発見には、線を引いてその中で考えるより、次元を上げてつなげて考えることが求められます。
問題解決のジレンマ
問題解決しようとすると、問題発見とは正反対の思考回路を使わなければなりません。
問題発見:不確実、質、創造性
問題解決:具体的、量、効率
会社などの組織では問題解決型の指標で評価されるので、自然と問題解決型の思考を取るようになります。そもそも問題発見型の成果を定量的な指標で測るのは難しいのです。
わかりやすくて具体的な問題解決型の思考が多数派になり、ますます問題発見の思考をする人の居心地が悪く、数が減っていきます。
要約③:アリ思考とキリギリス思考
問題発見が得意な人と問題解決が得意な人の特徴は、アリとキリギリスの寓話で例えられています。
コツコツとストックするアリと柔軟に対応するキリギリス、あなたはどちらに近いでしょうか?
『問題解決のジレンマ』で紹介されていた、アリか?キリギリスか?チェックリストの一部を紹介します。
アリか?キリギリスか?チェックリスト
・チームワークが得意(アリ)ー個人の主張が強い(キリギリス)
・恵まれない環境でもやり抜く(アリ)ー環境に恵まれなければすぐ他を探す(キリギリス)
・目の前の現実重視(アリ)ー高い理想から入る(キリギリス)
・常に人一倍努力する(アリ)ーいかに楽をするか考えている(キリギリス)
アリは短期的な視野で堅実な思考が得意で、キリギリスはイノベーションを起こすかもしれないし失敗するかもしれないような思考が得意です。
アリとキリギリスが同じ土俵で議論すれば、キリギリスが負けます。
なぜなら、実現可能性が高いほう・うまくいくと想像できるもののほうが評価されるからです。
しかし、アリ思考だけでは知識の陳腐化に気づかずに時代に取り残されてしまう可能性があります。
だからアリ思考とキリギリス思考の人をうまく組み合わせることが重要です。
「混ぜる」と「組み合わせる」は似ているようでまったく異なる。「混ぜる」とは、各々の個性を無視してとにかく混合し、一つの原理でまとめてしまうことである。これではすべての個性が殺されてしまう。対して「組み合わせる」とは、各々の個性を十分にわきまえた上で、最適の組み合わせの方法をメタレベルで考えて、各々の個性を最大限に活用できるようにすることである。
『問題解決のジレンマ』 の次に読むなら?おすすめの本
『問題解決のジレンマ』 とあわせて読みたい2冊を紹介します。
①『アーキテクト思考』
『アーキテクト思考』は、アナロジー思考と抽象化思考を駆使して全体構想を描く思考法の本。
著者は『問題解決のジレンマ』と同じ、細谷功さんです。
ゼロから1を生み出す、最初の絵・設計図を描くような仕事をする人には特に勉強になると思います。
参考記事:『構想力が劇的に高まるアーキテクト思考』の要約:ゼロからに構想を描ける人材になる
②『上流思考』
システム全体を考えて問題を未然に防ぐ思考法の本。
システム全体を考える、そもそも問題が起こらないように考えることで、
下流で対応するより劇的な成果が上げられる可能性があります。
参考記事:『上流思考』の要約まとめ:システム全体を考えて行動する
まとめ:無知・未知を味方につける
・問題解決:既知の未知の問いを解いて既知の既知にする
・問題発見:未知の未知から問いを見つけて設定する
・イグノランスマネジメント:
無知・未知を意識的に活用し、創造的活動のトリガーにする
・過去の成功体験や繰り返してきた思考パターンが問題発見の思考を妨げる
・問題解決型(アリ思考)と問題発見型(キリギリス思考)は正反対
・実現可能性が高いほうが評価されるから問題発見型は不利になる
・アリ思考とキリギリス思考をうまく組み合わせることが重要
無知・未知を活用する思考がイノベーションには必要です。
わかりやすいものだけ評価するマネジメントから脱却しましょう。
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