『差別はたいてい悪意のない人がする』は、”悪意なき差別主義者”がどうして生まれるのか、そして差別的な感情とどう向き合えばいいかを考えられる本です。
差別しようと思って差別している人はごく限られた人たちであり、ほとんどの人は「差別なんてしたくない」と思っています。
しかし、ほぼ全員が意識せずに差別してしまっている”悪意なき差別主義者”である可能性があります。
それでも期待を持てることは、ほとんどの人が差別をしたくないと思っていることで、ただ、気づかれない差別が数多く存在するだけだということである。その結果として、私たちはあらゆる場で、みずからを善良な市民であり、差別などない人だと思いこんでいる「悪意なき差別主義者」に出会うことができる。
人はそれぞれ自分の目から見た社会に生きていて、その中でなにが平等であるかは人によって同じではありません。自分にとっては正義のはずが、誰かにとっては差別になっていることもあるのです。
★ 『差別はたいてい悪意のない人がする』 の要約ポイント★
・差別に気づかないのはそれぞれの公平が違うから
・カテゴリー分けが偏見を強める
・構造的差別が自発的に不平等な選択をさせる
高校生・大学生のディスカッションの題材にもすごく良いと思います。
この記事では 『差別はたいてい悪意のない人がする』 の要約を紹介します。
目次
要約①:差別に気づかないのはそれぞれの公平が違うから
”差別主義者”と聞いてどんな人をイメージしますか?
わたしは、偏見に満ちていて抗議活動やときには暴力的な行動を起こす可能性のある、近づきたくない人物像が思い浮かびます。そして、身近にそんな人は実在しません。
しかし、実際に差別しているのは、差別していることにすら気づいていない”悪意なき差別主義者”です。
もし本当に、一握りの差別主義者だけが差別をしているとしたら、とっくに差別はなくなっているのではないでしょうか。
なぜ”悪意なき差別主義者”が生まれるのか、それは人によってそれぞれの公平が違うからです。
(例)
女性A「女性の格差をなくそう!」
男性B「それは男性に対する逆差別だ!」
女性側の意見は、”女性は男性に差別されている”という前提に立っています。
一方、男性側の意見は”女性はもう差別されていないし平等な立場である”という前提です。
前提が違うため、女性から見れば差別を是正することが公平であり、男性から見れば差別を是正することは男性に対する不平等のように感じます。
男性側の主張は、マジョリティ差別論と呼ばれます。
マジョリティ差別論:マイノリティのためにマジョリティが差別を受ける
マジョリティ側がマジョリティ差別論を主張すれば、マイノリティ側の差別は解消されません。
しかし、実際には女性の差別が解消されていない客観的なデータはたくさんあります。
(所得格差、管理職や役員の比率、政治家の比率など)
それでも差別はないと主張する”悪意なき差別主義者”がいるのは、まず自分(の所属する集団)は差別などしていないと思いこみたいからです。
また、マイノリティだからこそ女性の活躍は目立ちます。
男性ならニュースにならないことが、”女性初”だったらニュースになることもありますよね。目立つ事例だけ見ると女性は差別されていないように感じるかもしれません(そもそも”女性初”で目立つこと自体が格差がある証拠だと思うのですが…)。
ニュースではなくとも、身近に男性より成功している女性がいれば、女性が差別されているというのは実感がわきにくいでしょう。
しかし、社会全体を見れば、以前として男性と女性で格差があることは明らかです。
だれかの目には、マイノリティに不利な方向に傾いていると映る世の中が別のだれかには平等な社会に見える。前者の観点から平等を実現しようとする試みが、後者の目には「逆差別」に映る理由がここにある。
要約②:カテゴリー分けが偏見を強める
偏見を強めることによって、自分を守るために”悪意なき差別主義者”になってしまうこともあります。
特定のカテゴリーで分類すること(カテゴライズ)で境界が生まれ、偏見が強まります。
私たちーかれら/ウチーソト
性別、国籍、宗教、職業、収入、家族構成、信念、嗜好など
カテゴリーは分類の切り口によって無数にあり、その境界は主観的であいまいです。
本の中で、韓国人か(私たち)ー外国人か(かれら)の境界があいまいな例が紹介されていました。
①7歳から親に連れられて10年韓国で暮らしている高校生
②韓国に住んだことのない外国籍のアスリート
①の高校生は強制退去になった一方、②のアスリートは韓国人としてオリンピック出場するために韓国籍を取得できました。
①は”かれら”、②は”私たち”の根拠はあいまいです。
また、もう1つイエメンから韓国の済州島に到着した難民の事例が紹介されています。
済州島民を対象に難民を受け入れるか否かの投票を行ったところ、男性は賛成と反対がおよそ半々だったのに対し、女性は反対が圧倒的多数でした。
一般的に、弱者は弱者へ共感しやすいと言われています。
男性よりも女性のほうがイエメンの難民受け入れに反対だったのはなぜでしょうか。
それは、済州島民の女性にとって、イエメンの難民は”難民”ではなく”男性”や”イスラム教徒”というカテゴリーと捉えた結果、と考えられています。
たしかに500名の難民のうち、450名ほどは男性だったそうです。
しかし、イエメンの難民の男性は、男性やイスラム教徒というカテゴリで見ることが本当に公平なのでしょうか。
対象をどのカテゴリとして見るかはとても恣意的です。そして、イエメンの難民の女性の存在は無視されています。
差別とは、二つの集団を比較する二分法に見えるが、その二分法を複数の次元に重ねて立体的に見てこそ、差別の現実を多少なりとも理解することができるのだ。
たとえば、男性というだけで本当に差別を受けていないかはわかりません。シングルマザーだから全員支援が必要なわけでもありません。
「人はかんたんに差別してしまうもの、自分も例外ではない」と意識することが、差別主義者にならないための一歩ではないでしょうか。
固定観念を持つことも、他の集団に敵愾心を持つことも、きわめて容易なことだ。だれかを差別しない可能性なんて、実はほとんど存在しない。
「私は苦しいけど、あなたは楽だよね」と異なる苦しみを比較しても意味がありません。
「あなたと私を苦しめる、この不平等について話し合おう」という態度によって、対立ではなく協力して不平等に立ち向かうことができます。
要約③:構造的差別が自発的に不平等な選択をさせる
自発的な選択だったら差別ではない、と言えるでしょうか。
たとえば、「女性の収入が男性の約80%しかないのは、女性が収入の低い職業を自発的に選んでいるからだ」というのは正しいでしょうか。
実際に、大学の学部選択で男女の違いが顕著に表れている分野があります。
幼児教育、看護など福祉分野⇒ 女性8:男性2
物理など科学技術分野 ⇒ 女性1:男性9
大学で何を勉強するかはほとんどの人にとって自由に選択できるはずです。
この選択は将来の職業の男女比に影響し、結果的に収入の格差が広がるとしたら、それは差別ではなく自由選択の結果が収入の格差になっている、と思うかもしれません。
しかしこれは構造的差別の一種です。
構造的差別:役割を果たすだけで不平等な構造を支えてしまう
女性が福祉系の分野を選択する傾向が強いのは、女性が就職するのに有利なのはどの分野か?結婚・出産をしても仕事が続けやすいのはどんな分野か?という差別前提の判断が少なからず入っています。
自分が持っている不利な条件をすでに認識している人々は、その条件に合わせて行動する。
つまり、差別が存在する社会のなかで合理的に判断した結果であり、本当の自由意志とは言えないのです。
構造を是正しない限り、差別されている側の行動も差別や不平等を維持・強化する方向に進んでしまいます。
だから、私たちは疑問を持ち続ける必要がある。世の中はほんとうに平等なのか。私の人生はほんとうに差別と無関係なのか。視野を広げるための考察は、すべての人に必要だ。私には見えないものを指摘してくれるだれかがいれば、視野に入っていなかった死角を発見する機会になる。
『差別はたいてい悪意のない人がする』 の次に読むなら?
『差別はたいてい悪意のない人がする』 とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『Think Again』
思考柔軟性(メンタル・フレキシビリティ)の重要性がわかる本です。
思考柔軟性:既存の考えを新たな視点から見つめ直すこと
謙虚さを持って自分を疑うことで、思いこみから逃れられます。
参考記事:『Think Again』の要約まとめ:思考柔軟性(メンタル・フレキシビリティ)を上げるには?
②『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』
どうして他人を誤解してしまうのか、をいろいろな事件・事例から考察した本。
自分の判断を過信しない、慎重さ・謙虚さが大切です。
参考記事:『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』の要約まとめ:なぜ他人を誤解してしまうのか?
③『「わかりあえない」を越える』
NVCを使えば、自分の感情に自覚的になり、率直にリクエストを伝えられます。
NVC(非暴力コミュニケーション):
自分の内側と外側に平和をつくる、思いやりのある与え合いのコミュニケーション
自己尊重と他者の尊重を両立させるコミュニケーションがわかる本です。
参考記事:『「わかりあえない」を越える』の要約まとめ:NVC(非暴力コミュニケーション)とは?
まとめ:絶対に差別しない人なんていない
・”悪意なき差別主義者”=差別していないと思いこみ、悪意なく差別している人々
・人によって公平/平等な世界が違うから差別に気づかない
・カテゴリー分けが偏見を強め、差別になる
・私たちとかれらの境界はあいまいで主観的である
・「人はかんたんに差別してしまうもの、自分も例外ではない」と自覚する
・構造的差別:役割を果たすだけで不平等な構造を支えてしまう
・差別前提の社会では差別される側も構造的差別を維持する行動を取ってしまう
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