『コトラーのリテール4.0』はDX(デジタルトランスフォーメーション)がリテール(小売業)に与える影響を理解できる本です。
購買行動がどう変化しているか、これからの小売業にどんな考え方が必要なのかがわかります。
オンラインとオフラインをどう組み合わせるか、従来のリアル店舗にどんな新しい役割を与えるか等、実際の企業の事例もたくさん紹介されています。
★『コトラーのリテール4.0』の要約ポイント★
・DXによるリテールの変化:アドボカシー(推奨率)がポイント
・リテール4.0の10の法則:オンラインとオフラインの相互補完
この記事では『コトラーのリテール4.0』の要約を紹介します。
目次
要約①:DXによるリテールの変化
リテール4.0はH2H(human to human:人が人に売る)の時代です。
今までは企業が顧客に販売するBtoC(bussiness to customer)やさらに企業に売る企業がいるBtoBtoCが主流でした。
インターネットの発達によりD2C(direct to customer:直接顧客に売る)が普及し、
口コミの影響力が増したことで人が人に売る時代になったと言えます。
小売業の変化をまとめると次のとおりです。
リテール1.0:商店街
リテール2.0:ショッピングモール
リテール3.0:eコマース
リテール4.0:H2H
リテール4.0の時代では、商品を最初に知ってから購買に至るまでさまざまなタッチポイント(接点)があり、以前のように単一的なカスタマージャーニーではありません。
カスタマージャーニー:最初に知ってから購買に至るまでを道すじ
ネットが普及する前は、テレビやチラシ、新聞の広告を見て商品を知り、お店に行って吟味して買う。満足すれば家族や近所の人に勧める、というのが王道でした。
今は商品を知るきっかけも自社メディア・広告・口コミなど多様化し、
お店で実物を確かめてネットで買う、ネットで詳しく調べてからお店/ネットで買うなど、
購買行動も顧客のライフスタイルによってさまざまです。
今までのカスタマージャーニーは4Aモデルが有名でしたが、
インターネットの普及により、新しい5Aモデルに変化しています。
4Aモデル
aware:気づく⇒attitude:評価する⇒act:購入する⇒act again:再購入する
5Aモデル
aware:気づく⇒appeal:訴求する⇒ask:調べる⇒act:購入する⇒advocate:推薦する、再購入する
これまで、ロイヤリティの高さを測る主な指標は再購入率でしたが、
これからは推薦率が重要になってきます。
リテール4.0の顧客の変化は次のように表現されています。
要するに、オーディエンスは、より細分化し、より批判的になったが、同時に、注意散漫になり、限られた空き時間を割きたがらなくなっている。
特にコミュニティの影響が大きくなっているのが特徴です。
誰が書いたかわからないネットの口コミよりも、
同じ価値観を共有しているコミュニティでの評判を重視する人が増えています。
また、マーケティング戦略を改善するためにデータの活用が必須です。
単にデータを取得するだけでなく目的に合わせて有意義な情報にしたとき、
企業の大きな武器になります。
データは石油のようなものだ。
データに関わる分野で働く人に課せられた仕事は、発見し、抽出し、加工し、提供し、マネタイズすることである。
要約②:リテール4.0の10の法則
『コトラーのリテール4.0』では、リテール4.0の時代に必要な考え方を10の法則にまとめています。
①不可視であれ:認知的努力を低くする
②シームレスであれ:オンラインとオフラインの相互補完
③目的地であれ:モノではなくストーリーを売る
④誠実であれ:ステークホルダーに敬意を持つ
⑤パーソナルであれ:マス⇒one-to-oneマーケティング
⑥キュレーターであれ:明確に差別化したオファー
⑦人間的であれ:人間同士のつながりの価値が上がる
⑧バウンドレスであれ:リアル店舗の役割を制限しない
⑨エクスポテンシャルであれ:第三者の力を借りる
⑩勇敢であれ:ニーズから考える
特に重要だと感じた3つを紹介します。
①不可視であれ:認知的努力を低くする
”不可視であれ”とは、購入までの認知的努力を極力小さくすることです。
具体的にはクリックの回数や入力項目を減らします。
機会損失につながるような手間をフリクション(摩擦)とも言います。
不可視であれを実現しているのが、アマゾンゴーです。
アマゾンゴーはお店に入ってほしい商品を持って出るだけで勝手に支払いがされます。
レジでお会計をする必要も、クレジットカードを出す必要もありません。
顧客は時間を取られることに敏感になっているので、少しでもめんどくさいことは回避しようとします。
②シームレスであれ:オンラインとオフラインの相互補完
“シームレスであれ”とは、オンラインとオフライン(リアル店舗)で断絶のない、スムーズな体験を提供せよ、ということ。
顧客とのタッチポイントはオンライン/オフラインもさまざまありますが、
顧客にとっては一連のサービスであり、一貫性が必要です。
たとえば、ネットで注文した商品をリアル店舗で受け取れたり、
リアル店舗にある商品をその場でスマホで購入できるようにしたりすることで、
顧客がスムーズにサービスを受けられます。
リテール側がオンラインとオフラインの役割を決めるのではなく、
顧客の体験価値が最大になるようにオンラインとオフラインを統合するのです。
③目的地であれ:モノではなくストーリーを売る
“目的地であれ”とは、販売拠点をただモノを売る場所から行きたい場所に変えるということ。
リアル店舗にモノを売る以外の新しい意味づけをするということです。
いままでのリアル店舗=モノを買うために行かなければならない場所
これからのリアル店舗=経験する場所、行きたい場所
具体例として、サムスン837が挙げられています。
ニューヨークのサムスン米国本社内にあるブランディングスペースで、
最新の製品を試したりVRトンネルなどを体験したりできます。
ここではサムスンの製品は売っておらず、世界観を楽しんでブランドエンゲージメントを上げるための場所です。
リアル店舗でイベントや講座を行う企業も増えてきました。
購買活動はリアル店舗以外でもできるようになったからこそ、リアル店舗はギャザリングプレイス=集合と共有の場所へと意味づけを変えているのです。
購買選択が”製品の技術的優位”だけに基づいて行われていた時代は過ぎ去った。そのため、販売者には、オファリングと共に、販売者自身を表現し、人々の精神と心をつかむストーリーを語ることが要求されている。
『コトラーのリテール4.0』の次に読むなら?
『コトラーのリテール4.0』とあわせて読みたい3冊を紹介します。
①『whyから始めよ』
人の心を動かすwhy(存在意義、価値観、ビジョン)の重要性がわかります。
製品自体はwhatであり、whatだけで差別化するのが難しくなった今、
顧客に提供するwhyから考えることが求められます。
アップル社やライト兄弟、キング牧師など、whyで人を惹きつけた例がたくさん載っています。
参考記事:『whyから始めよ』の要約と感想:インスパイア型リーダーは内から外へ一貫性がある\
②『ナラティブカンパニー』
多くの人を魅了できる物語であり、共創できる余白があり、あらゆる企業活動の中で構造として機能しているか?
この質問にすべてYESなら、その企業はナラティブカンパニーということ。
顧客が参加できる余地があり、エンゲージメントを高めていく工夫が必要です。
参考記事:【ナラティブカンパニーの要約・書評】ビジネスにおけるナラティブの意味とは?
③『プロセスエコノミー』
商品やサービスの物質的なクオリティが変わらなくなるにつれて、
人間理解や共感をベースに経験価値が選ばれるようになります。
レストランで完成した料理を食べるより、バーベキューで一緒につくりたい!
そんな時代の変化が感じられる1冊です。
参考記事:『プロセスエコノミー』の要約まとめ:自分のこだわりを持って共感する理由をつくる
まとめ:リテール4.0は顧客体験が最重要
・リテール4.0はH2H(human to human:人が人に売る)の時代
・デジタル化によってカスタマージャーニーが多様化した
・家族や周りの人におすすめするかどうか=推薦率が重要
・購入までの認知的努力をできるだけ減らす
・オンラインとオフラインを一連のサービスとして統合する
・リアル店舗はただの購入場所ではなく、行きたい場所に変える
なぜ固定費のかかるおしゃれなリアル店舗を出すブランドがあるのか、その狙いがわかりました。
マーケティングの本として、とても勉強になります。
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